カビキラーでゴキブリを殺す

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「たくさんのウナギが殺されているんやで!」

ユニットバスの扉を開けると洗面台のところをゴキブリが慌ててわちゃわちゃしていた。以前のおれならば「キャッ」と声をあげたところだが、加齢のせいか抗不安薬を乗用しているせいか、このごろはずいぶんと冷静。冷静に足元にあったカビキラーを手に取り、スプレー。パニックになったゴキブリが方向を転換してバスタブの方へ。二射、三射と追撃すると、バスタブの底へ。逃げ場はない。おれはカビキラーを撃ちまくった。ついにひっくり返って腹を見せる。そこにもとどめのスプレー。少しの間、力なく脚を動かしていたがピタリと止まる。おれはカビキラーを置くと南無阿弥陀仏と手を合わせて、死体の処理はどうしよう? 結局、トイレットペーパーに包んで、トイレに流した。ユニットバスの利点というものだ。おまけにユニットバスにカビキラーで、カビの発生を防げたかもしれない。おれはカビキラーを愛している。ハイターも愛している。整理整頓は好まない。清潔は好む。わかるだろうか。

「たくさんのウナギが殺されているんやで!」

おれはウナギが好きだ。ウナギを食いたいという思いはある。スーパーのものでも構わない。みりんと日本酒を使ってうまく加熱して価格以上のふっくらさにする術も知っている。しかし、おれにはスーパーのうなぎを買う金すらない。おれはおれの金でいいウナギを食ったことがない。親の金でならある。中学生のころだった。日曜日、いきなり父が「浜松にウナギを食いに行く」と言い出した。東海道線で行ったと思う。「ワシは立つのが嫌だ」といって、行きも帰りもグリーン車だった。おれは「これが金の正しい使い方か」と感心した。もっとも、おれがそのような金の使い方をすることは生涯なさそうではある。そして、ウナギを食ったのだと思う。あまり覚えていない。よくわからないが、途中おしゃれな古着屋に入ってハワイアンシャツを買ってもらったのを覚えている。おれが古着のハワイアンシャツを好むようになったのは、これがきっかけだったかもしれない。

「たくさんのウナギが殺されているんやで!」

今朝は少し涼しくて秋の気配があった。春よりは夏の方が秋に近いのだから、そういうことがあったっていいだろう。それはそうと、おれは今年の夏を小学生の夏休みの気分で過ごそうと決めた。べつにちんたら働くのは変わらない。働く場が存続すればだが。それとはべつに、「まだ7月だ。この7月終盤はボーナスポイントのように思える」だの、「8月15日くらいまではまだまだ余裕だ」だの、「24時間テレビを見ながら徹夜で宿題を片付けるつもり」だの……べつに宿題もないのだが、そういう意識を持とうと。そういう意味で7月29日。まだ夏休みは始まったばかりだし、なんといってもまだ7月だ。31日まである。学校で過ごす3日分といえばそりゃあ長い。その3日を消化してもなお、8月の始まりだ。そこから1ヶ月もある。無限にも思える夏の日々……。