新井貴浩のカープ復帰について

 俺はさ、子どものころからのカープファン、物心ついたときにはカープファンだったんだけどさ、改めてカープを見直しはじめたのが、ちょうど新井が入団したころって感じだった。強いカープのころ、あのビッグレッドマシーンのころは、ちょっと興味が薄くなっていたんだ。だから、俺にとってさ、今のカープは新井のカープという気すらしていたんだ。球団としては日暮れ、夕闇、暗黒の始まり。それでもさ、成長していく新井とかさ、東出との三遊間とかさ、おもしろかった。おもしろいカープだった。

新井貴浩、カープを去る - 関内関外日記(跡地)

 俺は、これが起こるまで、「○○のいないチームなんて応援できない」という心持ちがわからなかったと言っていい。批判的ですらあったかもしれない。でも、なんというか、一年くらい経ってみて、ようやくその心持ちというものが、じんわりと自分を覆っていた。

やばい、野球にときめかない! - 関内関外日記(跡地)

 おれは物心ついたころからのカープファンである。むしろ、そういう人間にありがちな「もうそんなに興味ない」も繰り返してきたカープファンである。そんなおれにかなりのダメージを与えたのが、新井貴浩のFA阪神行きだった。信じられないという思いをした。

 広島から流出したヌースが万物を創成すると、プロティノスが言ってた。最下位球団からエースと四番が流出させるのが、フリーエージェント制の目的であったか? 新井と黒田のいずれかがフラウィウス・ヨセフス。ならばローマ軍は何か? 第四十四則。ある者は与えられ、なき者は奪われる。「ご主人様、私は預けられたタラントンを円天に交換しておきました」(マタイ25:14-30)。

世界の終わりと新井貴浩フリーエージェント - 関内関外日記(跡地)

 とはいえ、時が経ち去年、今年となると新しい選手たちが躍動し、新井のことなんてはっきり言って忘れていたというか、単なる他球団の一選手くらいのもんだった。
 ……のだが。

 阪神を今季限りで退団する新井貴浩内野手(37)が古巣の広島に復帰することが決定的になった。球団幹部が11日、前日に交渉して入団の意思を伝えられたことを、明らかにした。

http://www.sanspo.com/baseball/news/20141111/tig14111110420013-n1.html

 もはや球団社長の観測気球的コメントではない。複数紙が報じている。これは、かなり、本当の、ことなのでは、ないか。
 おれは思わず言う。
 「えー」
 抑揚のない、
 「えー」
 ……というのが今のところの反応といえる。
 あれはなんだったのか、という気になる。釈然としないというか、なんというのか、「えー」である。もちろん大歓迎だ! というわけなんてありゃしないが、頭を抱えるほど理解し難いとか、怒りに打ち震えるというのでもなければ、もう広島のファン辞めます、でもない。なんというのだろう、「えー」だ。「えー」。「へー」に近いかもしれないが、やはり少し驚きがあるから「えー」だ。でも「え〜っ!?」じゃない。平坦な「えー」だ。
 とはいえ、今のカープに代打の切り札的存在が足りていないな、というのはあると思う。浅井・町田のツープラトン的な。もちろん、控えに回った若手が結果を出すこともあるが、たとえば「代打・前田」のような必殺感を求めるのは酷だ。一発もわりとあるような気もするが、やはりホームランバッターという感じもない。岩本貴裕あたりに期待したいところ(本当はスタメンでバリバリやってほしい)だが、キャンプで公開説教くらって二軍送りという話など読むに、あかんのかもしれない。あとは栗原健太の復活は望めないのかとか思うが、どうなってるのかよくわからない。
 ……というなかに新井の実績の選手がこの値段で手に入るなら、役立たずだろうが、飼い殺そうが、まあ無駄な買い物ではないよな、とは思う。ただ、問題は、契約してカープのユニフォームを着るのが「新井の実績の選手」ではなく、新井だということだ。新井本人だ。高橋智じゃないんだ。それが問題なのだ。そしておれはなにか途方にくれて「えー」と思うのだ。「えー、新井?」と。