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必見としか言えん 映画『この世界の片隅に』

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映画が終わり、シアターが明るくなる。隣で見ていた女が言う。

「あれよりもぜんぜんすごいじゃない」

おれはこう応える。

「そりゃもう、原作からして違いますからね」

……べつにこの映画を賞賛するために、べつの作品を貶そうというわけではないが、そんな言葉しか出なかった。言うまでもないか、「べつの作品」とは大ヒットをした『君の名は。』だ。おれも観たし、女も観た。一緒に観たわけではなかったけれど、頭のなかに同じ「直近に観たアニメ映画」というものがあったのだろう。そして、そんなやり取りになった。

おれは、本当にいいものを観ると、なんかしょうもない言葉しか出てこないのだな、と思った。おれは女の感性や審美眼、いろいろなものに信頼を置いている。それでも、「あれより」としか出てこない。おれにしたって、『この世界の片隅に』という映画を賛美する言葉が溢れ出ることなく、べつに比較しようのない作品を較べるような言葉しか出てこない。きっと、ほんとうんいいものとは、そういうものなのだろうと思う。

もし、これを読んでいるあなたが、goldheadという人の感性はどこかしら自分に似たところがあるかもしれない、などと思っていたら(不遜な物言いご勘弁)、ぜったいに映画『この世界の片隅に』を観るべきだ。安心の俺印だ。

それにしてもなんというアニメだ。原作のこうの史代の、優しく、ユーモラスで、どこか色気もある線が、そのままになって動いている。どこか異世界につながっているような、たとえば石牟礼道子みたいなものがそこにはあった。主演の「のん」さんの演技もすばらしい。もし芸能界のなにかで活動が制限されているとしたら、ほんとうにもったいないと思う。そのうえ、緻密に描かれた町並み、建物、草花、軍用艦、機関銃斉射の音……。正直、おれはこの日、体調というか心の調子が悪かった。下手すれば寝てしまうかもしれないという危惧もあった。その心配は杞憂に終わった。「元気をもらった」という言葉はあまり好きではないけれど、観終えた後のほうが元気になった。

神奈川県ではららぽーと横浜、109川崎、そして辻堂。なぜみなとみらいで観られないのかよくわからない。それでも、川崎に行くだけの価値はあった。映画館のスクリーンで観る価値はあった。「ちょっと遠いからな」の「ちょっと」なら、そこはおして行くべきだ。おれはそう思う。

すずさんという人がその時代にいて、戦争というものになにも物言うひまもなくそこに巻き込まれ、空の神兵を歌い、そこらの草を食べ、親しい人は死に、自らも大きなものを失う。たまたま、そこにいただけで、そうなってしまう。爆弾が落っこちるときは、すべての自由が死ぬとき、だ。それでも人は自由であろうとするし、与えられた環境の中に楽しみを見つけ、生きるべくして生きる、それしかないのだろう。

それしか無いのだろうか? そういう場合もあるし、そうでない場合もある。少なくともすずさんには異議を申し立てる暇はなかったように思う。それでも、自分の暮らしを成り立たせてきたものが、よその国からの、よその人々からの収奪であったことを気づいてしまうシーンも強烈だ。そんなふうにも思う。

再度、いや、何度でも言う。これは観ておいて損しない作品だぜ。おれにはなにかを讃える言葉が少ないからうまくいえない。ただ、あんたも観てほしい、どこのだれかは知らないが、あんたにも観てほしい、そう思ったんだ。

 

>゜))彡>゜))彡>゜))彡>゜))彡

追記11/28

とんかつQ&A「この世界の片隅に」 | ホームページ作成サービス「グーペ」のキャラクターブログ「とんかつ教室」

で。まあ、ネタバレうんぬんは一般論や。どんな映画やマンガや小説にも言える。もう観た人に聞いてみたいんやけど、『この世界の片隅に』、映画鑑賞済み同士でも、感想を言い合うのにめっちゃ抵抗ない? 抵抗っていうか、勇気いらない? 劇場内が薄ら明るくなって「ああ、いい映画や、こら傑作やでぇ……」とジンワリしてから、あれこれ「良かったとこ」を具体的な言葉にしてみると「あれ? こんなもんやったっけ……」ってなるんよ。これがおじさんにとっての「1の扉」や。頭をひねりにひねって、ちっちゃい扉しか開けられない。あまりにも豊穣な世界を受け止める容積がおじさんの中にない、圧倒的な無力感ッ! 散りばめられた細かい欠片みたいなもんを、ざっくりした言葉でまとめあげることに冒涜感すら感じてしまう。

 このロースおじさんの意見、すごくわかる。この無力感から、おれと女はべつの映画としょうもない比較して「すごかった」としか言えなかったわけだ。この場合、他の映画なんてそんなに意味がない、というかまったく意味がないんだ。言葉にならなかったんだ。こいつは、そんな映画だ。そして、おじさんの言う「結局は自分で観て判断してほしいね」というところが、「必見としか言えん」なんだ。そうなんだ。

以上、追記終わり。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡>゜))彡

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この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

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この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

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