夢と狂気の王国、スタジオジブリ

「なぜ高畑勲さんともう映画を作りたくなかったか」――鈴木敏夫が語る高畑勲 #1

ちょっと前に、こんな記事が話題になっていた。スタジオジブリ鈴木敏夫高畑勲、そして、宮崎駿。おれはものすごく突出してジブリが好きというわけではないが、標準的にジブリは好きだ。そして、なによりドキュメンタリー番組でなどで見る宮崎駿、アニメファンの間で語られる宮崎駿伝説などが面白くてしかたない。

というわけで、上の記事もたいへん興味深く読んだ。なかでもこの箇所が一番グッときた。

 氏家さんは徳間書店の社長、徳間康快と同じ読売新聞の出身。経営者としても仲がよく、徳間の葬儀では弔辞を読んでもらいました。そのお礼を言いに訪ねていくと、氏家さんはしみじみと語りました。「徳さんはすごかったな。会社から映画まで自分でいろんなものを作った。あの人は本物のプロデューサーだった。おれの人生は、振り返ると何もやってない。70年以上生きて、何もやってない男の寂しさが分かるか」 

 前にも書いたが、おれが中高六年間を過ごした学校の理事長は、徳間康快その人であった。よく言えば山師、悪く言えば山師、ともかく山師風の人だった。神奈川県の底辺校としてただひたすらに底辺学生を集めて何もしなかったところに乗り込んで、溜め込んでいた金を全部使って海洋教育センターだの、映画館としても使える徳間記念ホールだの作って一発逆転を狙ったところ、そして、リクルート事件に関わり校長職を辞したというあたりも最高だった。そんなことは、『コクリコ坂』の感想でも書いたっけ。

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まあいい、その徳間康快氏家齊一郎が抱いていた思いというのが面白い。そして、その氏家が人生の最後に完成させたかったのが、高畑勲の映画だった。『かぐや姫』だった。

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して、この『かぐや姫』と近い時期に、宮崎駿が手がけていたのが『風立ちぬ』であった。その『風立ちぬ』制作に立ち会ったドキュメンタリー映画が『夢と狂気の王国』である。

 

宮崎、鈴木、高畑と仲良く並んでいるが、高畑は取材拒否ということでほとんど出てこない。

そして、このドキュメンタリーで宮崎駿が一番に怒気を見せたのが、高畑勲についてだった。

「『となりの山田くん』のあとにスタジオに帰ってきたら、むちゃくちゃになっていた」

……というようなことを、「あ、この人ほんとに怒ってる」という口調というか、態度というか、全身をもってカメラに向かって言ったのだ。

もちろん、宮崎駿高畑勲の仲がそんなことで片付けられるもんじゃないのはわかっている。むしろ、真の激怒をカメラに向かって放つことのできる関係、なのだろう。おそらくだが、このノンフィクションで、宮崎駿の感情が一番ほとばしっていた場面だったようにも思える。

でもまあ、なんだ、上の文春の記事にあるように、高畑勲というのは本当に、本物の、何かなのだろう。記事はちょっと盛ってるのかと思ったが、この映画の端々で語られるエピソード、やつれる若いプロデューサーを見ていると、やっぱりそうだったのかな、と。

一方で、才能あるアニメーターを潰してきたという宮崎駿というものはあまり映らない。が、やはり社員が「自分に守るものがある人は壊されてします」というようなことを語っていて、恐るべしなのだろう。そのあたり、あまり「狂気」の宮崎駿は出てこない。

でもね、面白いんだよ、宮崎さん。食えない人だけど、サービス精神もある。ノンフィクションの対象にしたくなる天才だわな。あと、おもしろかったのは、鈴木プロデューサーと庵野秀明だったか、「宮さんは自分を大切にしている」というところかな。バカスカ煙草(昔はチェリーだったと思うけど、なくなったからセッタにしたのかな)を吸うわりには、ラジオ体操するし、ヤクルトおばさんからヤクルト買って飲むし、時計通りの生活を送っている。そうでなきゃ過酷な仕事をやっていけるだけの体力もなくなるだろうし、創作の土台いうのはそういうもんかと思ったな。村上春樹もラジオでフィジカルがしっかりしてないと物は書けないみたいなこと言ってたし。

まあそんなで、『風立ちぬ』のラストシーンのどんでん返しとか、庵野秀明のアフレコ現場とか、猫とか、見どころいっぱいで面白かったな、と。狂気が少し足りないかもしれないが、映らないところが狂気というか、それよりもやはり緻密に作られていくアニメーションそのものが狂気の産物のようにも思え、まあともかく文春の鈴木プロデューサーの記事が面白いと思った人は見てみなさいって、と。もう見てるかもしんないけど。以上。

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もう一回観たくなる。

 

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