「ビルボード」の方が「ビルボーズ」よりカタカナ語としては馴染みがるのはわかる。わかるが、やはり複数形では? 原題は『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』か。『アウトサイド・エビング・ミズーリ』。意味がわからない。それとも邦題つけるか? しかし、『三枚の看板』ではなにか損なわれるような気がする。
「なにか」とはなにか。なんだろうか、なにかこの、この映画の持つ、狂気だな。狂気と調和、これがある。
どんな話か。娘がレイプされて焼殺された母親がいる。彼女が、道路沿いの大きな看板に、「娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」と出した。
これが波紋を呼ぶ。署長は現地白人男性社会では人望あり、しかも癌で余命幾ばくもない。そして……、ともかく母親に対して敵意を持つ人々との間に、と。
で、この母親役のフランシス・マクドーマンドがすごいのである。あの名作『ファーゴ』の(コーエン兄弟好きなので、この言い方させてください)フランシス・マクドーマンドである。その強さ、狂気、とはいえ、娘を不幸な形で亡くした母親である。その強さと弱さ。とはいえ、それらをぶっ飛ばすような狂気。狂気というと少しおかしい。もちろん、一番の行動は狂気的だろうが、狂気と言い切ってしまうのもなにか足りない。そこのあたりが、映画自体の奥深さと相まってすごいことになってる。
そうだ、すごいことになっているのだ。映画ですごいことになってるといえば、人類を滅ぼそうとする地球外生命体との宇宙戦争という場合もあれば、日本列島が沈没するような災害が起きることもある。それに比べたら、この映画はあくまでアメリカの片田舎の話である。「いなかの、じけん」だ。
でも、すごいことになってるのが、すごいのだ。それは人間社会の複雑さというものをうつしているからといっていいかもしれないが、ともかく、色々なものをあぶり出して、「どうよ?」と突きつけてくるのだ。
それでな、なによりラストシーンがいい。シーンというか、ショットというか、ここしかない、というところでビシッと終わるのだ。『ファーゴ』のラストを思い出したりもした。見どころだ。もちろん、そこに至るまでの流れも、まったく飽きさせない。これはもう、観たほうがいいよ。間違いない。うん、ほんま。では。
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