うつ病が耳鼻科で診断される日は来るのですか?

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うつ病の「引き金」物質を確認 名前の由来はあの敵役:朝日新聞デジタル

過労や強いストレスが、なぜうつ病を引き起こすのか。この謎の答えの鍵を握るウイルス由来のたんぱく質を、東京慈恵会医大の研究チームが確認した。

おれは前から不思議に思っていたことがあった。うつ病(大うつ病性障害)は脳の病気だ。心の病気ではないはずだ。そして、脳は数ある臓器のひとつにすぎない。うつは心の風邪、とは誤解を招くので言われなくなったが、臓器の不調のはずである。が、なぜ、仕事のストレスとかによって引き起こされるのか? やはり心というものを扱わなければならないのか?

 普段は休眠しているが、体が疲れると、HHV6は目覚め「弱った宿主から逃げだそう」と、唾液中に出てくる。その一部が口から鼻へ逆流する形で、においを感じる脳の中枢「嗅球(きゅうきゅう)」に到達し、再感染を起こしていた。

 近藤教授らは、再感染すると、嗅球で「SITH(シス)1(ワン)」というたんぱく質が作られ、この働きで脳細胞にカルシウムが過剰に流れ込み、死んでいくことを培養細胞やマウスの実験で突き止めた。さらに、嗅球の細胞死によって、記憶をつかさどる海馬での神経再生が抑制されていた。

が、そのきっかけ、引き金についての一つの説が提唱された。唾液や嗅球などが関係しているという話である。機序の一端の手がかりになるかもしれない。やはり大うつ病性障害は脳という臓器の病気であり、臓器に連なる身体にその原因があったといえるかもしれない。うつは脳の病気だ。臓器の病気だ。身体の病気だ。おれはそう考えている。ただ、機序がわかっていない。わかっていないから、セロトニン仮説などによってとりあえず効きそうな薬が処方されている。そういう理解だ。たぶん、そんなに、間違ってないんじゃないのかな。「心」とかいう不可思議の神秘は関係ない。怪力乱神を語らず。だからこそ、マウスで実験できるんじゃないか。実験用マウスに「心」があったならば、自らの境遇に思い悩み、なんの処置を施さずとも抑うつ状態になってしまうことだろう。二鼠に還って仏性有りや無しや。

近藤教授は「過労がうつ病につながるということは当たり前のようで、実はこれまで立証されていなかった。発症の仕組みの一端が見えたことで、うつ病の本態の解明につながれば」と話す。

さて、もしもこの説が正しいとして、この「引き金」物質を抑制できる薬が開発されたらどうなるだろう。大うつ病性障害という病は精神科や心療内科から、耳鼻咽喉科あたりに引っ越すことになるのだろうか。そうかもしれない。

おれは次の記事を思い出す。

医学書院/週刊医学界新聞(第3326号 2019年06月17日)

加藤 精神医学という領域は,不思議な領域です。精神疾患患者の一群に器質的な原因が見つかると,その一群は「精神疾患ではなかった」ことになる可能性があるのです。典型例は抗NMDA受容体抗体脳炎。機序解明前は緊張病型の統合失調症とカテゴライズされ精神科で診ていたわけですが,現在は脳神経内科の守備範囲になっています。

これである。もしも舌や鼻でおこる器質的な原因でうつ病の発生を抑えることができるようになったら……。

北中 精神医学への期待は,時に過剰なものにも見えます。精神科が生きづらさを救ってくれる場として認識されたことで,自身を疾患のラベルで語りたがる人が増えました。セルフチェックをして精神科へ来院し,誰しも経験するような人生の葛藤を,脳神経科学的な特性に由来する事象として,バイオロジカルに,早急に解決することを求めるような風潮もあるかと思います。

加藤 確かにそのような場合が多く見受けられます。「同僚にひどいことを言われ,具合が悪くなった」と言う患者さんがいます。それは具合が悪いのではなくて,ひどいことを言われて嫌な気分になった当たり前の心の働きで,疾患の症状ではないのですが。

 将来的には脳を見ることで,疾患に由来する症状かそうでないのかを峻別できると期待していますし,それをめざして研究をしています。残念ながら区別できないのが現状です。

そして、「同僚にひどいことを言われ、具合が悪くなった」という人もHHV6やらSITH1をバイオロジカルにチェックするようになるかもしれない。

それでなにが悪いのか。なにも悪くない。ついでに言えば、人間の生きにくさや社会の問題と、脳という臓器の疾患をいたずらに接着させることはやめてもいいんじゃないのか。社会学という曖昧な領域から、時代の問題としての精神疾患を剥ぎ取ってしまってもいいんじゃないのか。そんな気すらしている。

と、ここまで読んできた人間がどれだけおれのことを知っているのかしらないが、おれは「双極性障害II型」の診断を受け、精神障害者手帳も持っている。

双極性障害というのは、かつて「躁うつ病」と呼ばれていた病気だ。そして、II型というのはそれほど激しい波がなく、どちらかというと鬱々と生きている人間のことである。I型の方が激しく、全財産をあっという間に使い切ったり、大借金をこさえたりするが、一方でその激しさによって社会的な大成功を収める可能性がないわけでもない。

ともかく、おれが知る限り双極性障害II型の人間というのは、たまに軽躁状態というのもあるかもしれないが、基本的に憂鬱だ。抗精神病薬(おれにとっては神のようなジプレキサ)を飲まないと、身体が動かなくなる。強い倦怠だ。そして、薬を飲んでいても、たまに動かなくなる。しかもおれなんか、軽躁になったら頭が空回りして歯ぎしりばかりしていい気分にもならない。ポンコツもいいところだ。

というわけで、加藤忠史先生、いや、どこの先生でも構いませんが、双極性障害にも今回の単極性のやつみたいな機序の解明を進めてください。解明された結果、「予防はできるが発症した人間は回復できない」ってわかったとしてもかまいませんので。いや、しかし、唾液と嗅球だぜ。嗅球を見たことはないけれど。だから、なんか、よろしくな!

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