秋の夜の霜取り

goldhead2004-11-02

 台風や地震など、何かと騷がしい昨今。高くなるのは野菜と防災意識*1という。ところが、食糧を備蓄しようにも、貧乏な一人暮らしの冷蔵庫の中には、明日の食糧すら危ういくらいなもの。そして、溜まってくるのは賞味期限切れの食べ物どころか、冷凍庫の霜くらいというありさまなのだ。
 普段、私は水を飲んで暮らしている。しかし、水だけではあまりにひもじいので、氷を入れることがある。昨夜も、そのために冷凍庫を開けたのだ。そしてふと、しゃがみ込んでまじまじと冷凍庫を見てみた。冷凍庫の中には製氷皿と使いかけのミックス・シーフード、そして食べかけのチョコレートだけが入っている。しかし、妙な圧迫感。そう、上下左右、そして奥と迫り来る霜、霜、霜。これは一大事だ。
 そこで私はまず、冷蔵庫の取扱説明書を取り出した。何事もマニュアル第一主義の世代である。冷蔵庫は三洋ハイアール製の一人暮らし用。説明書には「定期的に霜がつく構造」であり、「5mmほどになったら取り除け」というようなことが書いてある。現状では5mmどころではなく、ヘタすれば5cmなんて部分もありそうだ。そして、霜取りの方法。運転を「切」にせよ、とある。そして、「溶けてきたのを雑巾で拭け」という。いや、しかしあれだけのものが溶けるのを待っていては、一緒に停止する冷蔵庫内のものも心配だ。ここは、「アイスピックのようなもので削るな」との注意に背いて、得物を使うよりあるまい。
 そこで取り出したのは大型中華庖丁。刃先を霜の端っこに食い込ませ、てこの原理で剥がしていく。最初に取りかかったのは下部。手前の方は意外と簡単に剥がれていく。その剥がれた霜は容器に入れ、停止している冷蔵庫に。これはもう立派なエコロジー・システムです。
 などと自画自賛したのもつかの間、側面や上部は霜が厚く歯が立たない。運転は停止しているのでだんだん溶けてくるのだろうけど、それを待つ気もない。何らかの方法で温めることにする。はじめ思いついたのはハロゲンヒーター。しかし、それでは冷蔵庫の方まで熱が行ってしまう。次にドライヤーを思いついたが、音もうるさいし電気代もかかる。熱湯をかけたら機械を傷めてしまうかもしれない。そこで採用したのは蒸しタオル。冬になると帰宅後に目が乾きすぎてしまい、電子レンジで蒸しタオルを作って温める習慣があったのだ。
 ハンドタオルを二つ温めて、アチアチいいながら冷凍庫へ投げ入れる。湯気がすごい。劇的な効果はないものの、霜の端っこが溶け、刃を入れるとっかかりは作れる。そして、庫内表面に傷をつけないよう慎重に力を入れ、てこの原理でくいっ。ガロン、という音を響かせて大きくつるつるに凍った霜が落ちる。これはもう立派な職人気分です。途中出てくる大きな塊は、おもわず部屋の外の通路に出して他の住民に自慢したくなるほどだったが、さすがにやめる。ただでさえ怪音を発しているし。
 そんなこんなで、いよいよ向かって正面の奥の面。ここはどうやっても包丁は入らない。どうしたものかと触っていると、もう庫内の温度も高くなっていたのか、ちょっと動きそうだ。ぐいっと力を入れると、手前にガロンと落ちた。ミッション終了。冷蔵庫の運転を開始し、冷凍物を戻す。しかし、霜のない冷凍庫にポツンと置かれると「本当に冷えているのか」といぶかしがってしまうほど無味乾燥だ。少しくらい霜があった方が、冷凍庫の妙味なのか。

*1:http://zian.org/cgi-bin/nfa/htm/1099208757.htmlより。まるで笑点の良くできた答えみたいだ。