マイルチャンピオンシップの回顧

 返し馬からファンファーレ、ゲートイン、そしてスタート。競馬で目の離せぬ時間である。だが、事もあろうに俺はウトウトしてしまった。ポカポカのホットカーペットの上に居たのがいけないのか、ハッと目が覚めた時には、ギャラントアローを先頭に隊列ができあがっていた。俺の競馬歴で、テレビの目の前に居ながらスタートを見逃したのはこの時だけである。
 だから俺はレースを見ながら好位につけるラクティを見て「こりゃあっさり勝つんじゃねえか?今日ちょっと単勝買い足して正解だったかな」とか思っていたのだ。あんなに出遅れて脚を使ってたとはつゆ知らず。そんな勘違いを飲み込みながらレースは進む。四コーナー。つーっと社台の勝負服が前進して、外へ回る。直線を向くと、まだ持ったまま抜群の手応え。「こりゃデュランダルの勝ちだ」と思ったのもつかの間、その外を暴力的な差し脚をぶっ放して来るのが一頭。こっちがデュランダルで、さっきのはダンスインザムードでした。だって、吉田照哉と社台RHの勝負服似てるんだもん。
 しかし、デュランダルは強い馬だ。追い込み馬に同居する脆さがない。幾らでも誉めたい。よくやったデュランダル、さすがだ池添。惜しむらくは、相手にアドマイヤマックスあたりが来なかったこと。ダンスも日曜の買い足しで、文句なしのトリガミだ。まあ、一日のトータルでは浮いたからよしとしよう。
 それにしても池添謙一、侮れない男である。自分が一時競馬から遠のいていた時期あたりに出てきたせいもあるが、いまいちキャラが掴めない。なんとなく自分の中では「先行得意の若手」というイメージのままだ。だが、実際は肝の据わった追い込みでデカイところを仕留める。しかし、決して「剛腕」という形容は似合わない。かといって、「天才肌」という感じでもなく、リーディングも十位圏内。このよくわからない個性派、とにかく「こういう競馬をしてくれる」という信頼ができるので、これからも目が離せない。