ハイパーリサーチ株式会社とは何か?

 先週の金曜日だったろうか、アパートの郵便受けに封筒が刺さっていた。となりの郵便箱にも同じ封筒が刺さっていたので、お馴染みの不動産屋か何かの投げ込みチラシの類かと思ったら、私の住所・氏名を正確に名指ししてきているので驚いた。「ダイレクトメールごときで何を驚くの?」と思われる方もあるだろうが、私はこのアパートに引っ越してきてから一年、正確な漢字で名前を書くのをやめていたからだ。具体的には書けないけれど、萩原さんが荻原さんと書くようなものである(いや、読みが違うからちょっと違うか。まあいいや)。そこで、正確な住所と名前でダイレクトメールが来たのだ。流出元を考えるに、不動産屋か?といったところ。そんなことを考えながら部屋に急ぎ、慌てて詳細を確認した。
 まず、封筒。郵便ではない、ヤマト運輸メール便。薄い水色の封筒はオリジナルのもので、青系の一色刷り。HとRをあしらったロゴの横に「ハイパーリサーチ株式会社」。その横に「〒164−0012 東京都中野区本町4-44-13(西京城西ビル) TEL.03-3383-7669」と住所と電話番号が明記されている。
 封を開ける。中には、「アンケートご協力のお願い」と題されたメモ、アンケート用紙、返信用封筒(料金受取人払)の三点が入っていた。

アンケートご協力のお願い
 拝啓 時下、皆様には益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
 私共、ハイパーリサーチ株式会社は、世論の動向や各種商品に対するご意見をお聞かせいただき、社会や消費者の皆様のお役に立てるために分析・研究を行っております統計調査の専門機関でございます。
 この度、こうした活動の一環として「メディアとの接触率調査」を企画し、皆樣方のご協力を賜りたく、突然で大変失礼かと存じますが、お願いのお手紙を差し上げた次第です。
 アンケートの内容は「メディアとの接触率」と申しましても、日頃ご覧になっているテレビや新聞等にどの程度の時間接触しているのか、あるいはインターネットなどをご利用になっているかなどをお伺いするだけの簡単なもので、5〜10分くらいで終わるものです。
お答えいただいた結果は、データとして集計し下記のようにまとめられますので、当然のことながら、皆樣方のお名前などの個人情報がそのまま外部に出たり、後日、ご迷惑をおかけすることは、決してございません。
 また、弊社はセールス活動とは一切関係ございませんので、どうかご安心頂きますようお願い申し上げます。
 なお、些少ではございますが、アンケートにご協力を頂いた方には、後日改めて500円分の図書券をお送りさせていただきます。 敬具
<お問合せ先>ハイパーリサーチ株式会社 東京都中野区本町4-44-13(西京城西ビル) TEL.03-3383-7669 管理部長 池上彰 調査担当 藤本

 さあ、この文面を見てどう思ったか。まずチェックすべきは、他はゴシック体なのに「5〜10分」の「10」のみが明朝体になっていることである。修正時の誤りだろう。また、「お答え頂いた〜」の段落の頭を落とし忘れているのも気になる。それに、センテンスが長すぎる。よく見れば、一段落一センテンスじゃないか。ジジイのファックでもあるまい、ダラダラ続けるのはよくない。また、漢字の使い方にも疑問が残る。「私ども」「皆さま」「新聞など」というのがその筋では一般的な表記だ(「等」については「インターネットなど」と直後にあるので、「とう」と読ませたいのかもしれないが、統一した方がいい)。
 ……悪い癖だ。そんなことから何がわかりますか。だいたい、人に文句をつけられるほどの文章を書けるというのですか、私は。しかし、どうもこれだけではこの「ハイパーリサーチ株式会社」が真っ当な会社なのか、詐欺や悪徳商法のインチキ会社なのか判断つきかねたのも事実である。「ハイパーリサーチ株式会社」も同じように考えたのか、同じ紙の左下にExcelで作ったようなグラフ、そして右下には「下記にあげるような各種調査を実施しております(公的機関の公開できるものの一部です)」と、アンケート実施例が記載されていたのだ。曰く「インターネット利用者インタビュー」(1999年 東京大学)だとか、「震災聞き取り調査」(2001年 阪神・淡路大震災記念協会)だとか八例あげられている。これはぐらっと来ますよね。信じてやろうか、という気になる。そこで、アンケート用紙の方に目を移す。

Q1.あなたは、現在インターネットをご利用されていますか。ただし、iモードなどの携帯電話での利用は除きます。(○は一つだけ)

 この調子で、インターネットと携帯でのネット利用、テレビの視聴頻度、ラジオの聴取頻度、講読新聞の調査と続く。どれも選択肢から○をつけるだけの、なんともシンプルなアンケートだ。そして、Q6で「あなた、又はあなたと同居なさっている家族の中に」「マスコミ、広告会社・広告代理店、市場調査」の従事者はいるのか、と聞いてきた。実にそれらしいアンケートである。しかし、だ。何となくアンケートが単純すぎねぇかい? と思ってしまったのだ。こんなんわざわざどっから名簿調べて送るか? と。むしろ、質問の最後にある、

弊社では、こうしたアンケートに不定期ですが、継続的にご回答いただく「調査回答員」を募集しております」

が狙いで、これに応募しようものなら、インチキ商品がモニターを称して商品が送りつけられ……、などと妄想も膨らもうというもの。なにせ、この一文ですら読点の位置がおかしいのだ。いや、それよりも、ここまで読んでどこにもURLの表記が無いのだ。それが気になった。気になったというより、私はその点が一番怪しく思えた。このご時世のこの手の会社が、である。サイトを持つ前に封筒を刷りすぎてしまった、などという理由かもしれないが、中身のメモにいくらでも加えられるだろう。ただ、住所、電話、ファックスを晒してるし、封筒はちゃんとしたもの。返信封筒も受取人払いだしなぁ……。
 ……などなど、上着を脱ぐのも忘れて見入ってしまった。よほど私はすることのない人間なのだろう。さらに言えば、Q1に対して「2.職場・学校など自宅外で利用している」の人間であり、URLのあるなしどころか、すぐさまネットで調べることもできなかったのだ。
 と、ここまでがネットの無い状態で私が考えたほぼ全て。ネットのある環境で検索すると、ハイパーリサーチ株式会社についての記述(http://suzuki.tdiary.net/20040422.htmlhttp://merino.tea-nifty.com/merinolog/2004/07/post_7.html)や、会社そのもののサイト(http://hyperresearch.jp/)などが見つかり、詐欺、インチキ、悪徳商法の会社ではなさそうだ。住所も住民台帳から調べるらしく、それなら納得だ。隣の部屋にも来ていたのは偶然なのか、それともアパートごと抽出したのかという疑問は残るけれど。いや、だったらなぜ手紙にその情報元を書かないのだろうか。かえって怪しまれると踏んだかもしれない。
 さて、私はこのアンケートをどうしよう。下線つきで「1月14日までにご投函ください」とある。個人情報の流出がどうこうよりも、目先の五百円に心が動いているのは確かだ。しかしなんだ、ハイパーリサーチさん、こんな調査では五百円に喰いつくような貧乏人のサンプルばかりが集まって、結果に妙な偏りでも出やしないかね?