ポンペイのブラック・ウィドウ

 女学生でも看護婦でも、修道女でも婦人警官でも、そもそも制服を着ているからエロティックなのであった。しかし制服のプレスティージュ、私たちにそれを奪い取りたいという欲望を起こさせる。といっても、すっかり奪い取ってしまえば、普通の女性と変わりなくなるはずだから、それではどうも私たちとしては面白くない。いちばん都合がよいのは、半分だけ脱がせるということだろう。

 上に引用したのはあるサイトにあった「アダルトビデオの不満」という話題に関し、コスプレ物についての不満を述べたコメントです。……というのはウソで、澁澤龍彦「制服、そのエロティックな秘密」(『夢のある部屋』収録)より引用したもの。かつてブルーハーツは「我々人類はバカ/過去現在未来バカ」と歌ったものですが、さしずめ「我々男性はエロ/過去現在未来エロ」と言えるかもしれません。二千年前のポンペイの男(http://www5.big.or.jp/~hellcat/news/0502/07pic.html)とだって、我々はバカなエロ話に花を咲かせることだってできるでしょう。
 さて、私は何の話をしたかったのでしょうか。上に引用した澁澤のテキストの中にも出てくる、プレスティージュ(威厳)を持った衣装の一つである、喪服についてです。つまり、私が日記に記したいことを簡潔に表現するならば、以下のようになります。「会社の人の親族が亡くなり、葬式を終えた女性社員が昼頃から喪服姿で出社してきた。それを見た俺は喪服の良さを再認識した」。
 不謹慎なんて承知の上ですが、私も過去現在未来を繋ぐバカの一人なのだからしかたありません。そして私は世のアデージョ志願者たちに言いたい。乳間ネックレスなんかより喪服ですよ、と。若い子の喪服姿にもある種の魅力はあるでしょうが、やはり喪服の良さを最大限生活かしきれているとは言い難い。そこのところをわかってもらいたいのです。まあ、実際のところ喪服姿のアデージョに何かしようとしても「シワになるからダメ」と言われるのがオチかもしれませんが。
 ところで、この間行ったデュシャン展に、ローズ・セラヴィ名義の作品『Fresh Widow』が展示されていました。窓そのものの作品が表す通り「French Window」との言葉遊びなのですが、「新鮮未亡人」という脳内直訳に一人で勝手にウケたものです。
 そして、小見出しの「ブラック・ウィドウ」。私がウィドウ(widow)という単語を覚えたのは、アメリカの夜間戦闘機の名前からなのですが、一応検索してみるとYF-23なる新鋭機ばかり出てきたので面食らってしまいました。けど、ちゃんとありました夜間戦闘機ノースロップ・P-61。エロでバカな男としては、どうせ殺されるならば「復讐者」や「海賊船」じゃなく「黒い未亡人」の手に掛かりたいというのは、ポンペイの男も澁澤御大も同意してくれるのではないかと思います。
 それにしてもあっちに行ったりこっちに行ったりとりとめのない話です。我ながら。