東急ハンズの悪魔

 この日は朝から雨が降ったりしていた。藤沢へ買い物に行った。職場で使ってるサンダルがボロボロになったからだ。たった五本の糸が、そのサンダルをサンダルたらしめているという状況だ。毎日そんなのを履き続けていたら、気が滅入ってしまう。
 藤沢には早く着いた。店が開くちょっと前だ。駅の中のロッテリアに入った。ロッテリアは少なくなっているように思う。本当に久しぶりだ。朝なので、僕はジャムトーストのようなものと、コーヒーを頼んだ。出てきたジャムトーストのようなものを見て驚いた。あまりにも小さく、御粗末なのだ。僕がヤクザだったら怒鳴りはじめたかもしれない。僕はヤクザじゃないので怒鳴らなかったけれど。こんなことなら、フライドポテトにすればよかった。ロッテリアはフライドポテトが美味しいという印象があるのだ。
 ちょっとの時間つぶしのはずが、長いおしゃべりになってしまった。ロッテリアを後にして、東急ハンズに行った。藤沢を出て一年そこらになるけれど、街並みも少し変わったようだ。そして、ハンズの中も少し配置が変わったみたいだった。まず一階で鞄や財布、木材や蛇口などをだらだらと見た。だらだら見るのが楽しいところだ。物欲さえ湧かなければ。
 僕が物欲に捉えられたのは二階だった。食材コーナーの片隅の、ミニチュアボトルのコーナーだった。ミニチュアボトルほど愛らしいものがこの世にあるだろうか。精巧にできていて、中には本物のお酒が入っている。たまらない。片っ端から買ってしまいたいところだったけれど、無駄づかいはできない。僕はスコッチが好きなので、スコッチのを一つ買おう。選択肢は三つ。ラフロイグ、グレンドロナック、オーヘントッシャンラフロイグはディック先生の愛するスコッチだけれど、他より一回り大きく箱入り。なおかつ千円以上する。これはパス。残り二つ。知識なんかあるはずもない。悩んだ挙げ句、二百円ほど安いオーヘントッシャンをチョイス。ラベルに小さく「Triple...」と書いてあるのが読め、ひょっとしてシングルモルトじゃないのかな、とも思う。が、家に帰ってスコッチの本をひもといたところ、三回蒸溜という珍しい手法で作られているということらしい。このローランドのスコッチ、おいしかった。それに僕は、本当のチビチビなので、ミニチュアボトルで充分ですよ。
 これ一本だとなんなので、調味料を一つ買った。「こーれーぐーす」なる沖縄の調味料。唐辛子を泡盛と酢に漬けたもの。小さな瓶の中に、二、三個唐辛子が浮いている。調べてみると、沖縄料理には必須といったもののよう(http://www.ryukyu-sanuki.com/shop/item/h/4.html)。僕が買ったのは、もっと小さな、家庭用ラー油みたいな容器に入ったやつだったけれどね。で、これが泡盛の香りがハナをくすぐるようで、なかなかに面白い風味。けれど、それほど辛さは感じなかった。舌がバカになってるのかもしれない。
 さて、この二つを買って一安心かというと、そうは行かない。下りエレベーターの前にランプが置いてあったのだ。江戸川屋ランプ(http://www.edogawaya.com)だ。僕は火遊びが好きで。よく灰皿でマッチの棒を燃やしたりする癖がある。アロマテラピーに興味が無くとも、線香やロウソクを灯したりする。そんな僕の前に、一つ千円程度のランプが現れた。どうしますか。買うしかないでしょう。いや、結構悩んだ。しかし、千円(いつのまにか一番安いのにロック)だ。替え芯百円、灯油が五百円。うーん、買え、買え、買っちゃえ、ということで購入してしまった。あなた、ワンルームのアパートにランプが必要ですか?
 このランプ、家に帰って早速点火。いきなり部屋に死の灰が降ったから驚き。バンバン煤が舞い上がる。慌てて芯を引っ込めると、煤が出なくなる。江戸川屋のサイトのBBSにも、似たような書き込みがあったので、皆おちいる罠なのかも知れない。しかし、その先に問題があった。しばらく灯し続けていると、ボッ、ボッという音がして、また煤を出すのだ。よく見てみると、棒芯を包む金具にすき間があって、棒芯の先端から側面に引火してしまうのだ。手作りとはいえ、これはいい加減な仕事だなぁ。その部分はメイド・イン・チャイナだし。アルミホイルでも巻くか。
 まあとにかく、二度レジに並び、二回買い物をした。しかし、それでは終わらなかった。画材コーナーで、使い捨てのGペンを発見したのだ。漫画家も使っていると書いてあったけれど、0.1mmの線が引ける。強弱も付けられる。僕は細い線を引くのが好きなので、これも購入。三百円だったか。流石にレジは人に頼んだ。
 そして再び一階へ。しかし、嫌な予感がしたのだ。ポスターに、鉄道グッズなんたらと。頭に小平氏のサイトが思い浮かぶ(http://darts.cool.ne.jp/an2/htm/1115243697.html)。そうか、そういうものを売っているのか。そして、売っていたのだ、そういうものらが。僕は鉄道マニアでもなんでもないけれど、思わず電車の運転機器のボタンを押したりダイヤルを回したり。そして、電車の灰皿、扇風機、路線図、駅の所要時間表などなど……。「やべー」を連呼してなんかはしゃいだように思う。はしゃいだ挙げ句、五百円で一つ買ってしまった。なんだろう、このやばさ。
 やばいのもほどほどに、地下で食事した。食事して外に出ると晴れていた。晴れて、少し暑いくらいだった。その後、オーケーとダイソーに行ったのだけれど、ここまでと同じ分量になりかねないので割愛。ダイソーでは中国語の本二冊とCD、ガム、CDケース二つを買った。オーケーではサンダルとカバンを買った。その後、マルイとマルイの地下食品売場へ行った。と、一応。