『シービスケット』

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 観よう、観ようと思いつつ、すっかり記憶の片隅に行ってしまったシービスケット。ひょんなところから回ってきて鑑賞と相成った。誤った予備知識として、シービスケット牝馬と思いこんでいたのは内緒だ。
 さて、どんな映画だったか。競馬映画だった。本当に無駄の少ない競馬の映画なのだ。ハリウッド映画にありがちな、無駄な恋愛要素なんか一切なし。ちょっと懸念していただけに、これには驚きそして感謝。しかしもちろん、レースシーンばっかりの映画でもなく、アメリカの風景と歴史という競馬のバックボーンも美しく描けているのです。あの広い野っぱらを見せられると、「負けるよな」と思わざるを得ません。
 しかしまあ、特筆すべきはレースシーン。最高潮なのは三冠馬ウォーアドミラルとの一戦なのだけれど、印象に残ったのは最初の草競馬。掴み合い、殴り合いの草競馬。ここらあたりの風景には、今とはかけ離れた何かを感じる。もっとも、この時代こんな掴み合いをしていたのは草競馬ばかりでないらしい。『競馬歴史新聞』(ASIN:4537252057)をひもとけば、1933年のケンタッキーダービーで勝ち馬と二着馬の騎手が掴み合いをしたままゴールする写真が載っている。ゴール後には負けた方が勝った方を鞭で殴ったというのだから、この映画の激しすぎる騎手同士のやり合いは、この時代の常識ということか。
 それにしてもまあ、レースシーンがよくできてる。もちろん、シービスケットごぼう抜きのシーンで、他馬が手綱を抑えているように見えた、なんてのは些細なこと。だって、クリス・マッキャロン(レンタル用DVDのメイキングでは‘マカロン’になっていたけれど)指揮でゲイリー・スティーブンスだもんな。そう、ゲイリー・スティーブンス。演技が上手すぎて、あまりにもハマリすぎ。唯一の難点は、その刻みこまれた男のシワが、あまりにも本物の騎手すぎるということくらい。恐れ入った。しかし、ここまで重要でナイスな役とは想像もしなかった。俺が海外競馬に目を向けていたころ、この名を聞かぬ日はなかった、あの騎手が、だ。
 そのスティーブンスがマッチレースの手綱をとる。やはりこのレースがこの映画の最高潮。それだけに、その後がやや冗長に感じられてしまい、ちょっとカタルシスが得られない点は気になった。まあ、事実を元にしているのだから仕方ない。シービスケットもその後走りまくって、その時点で世界歴代最高賞金獲得馬になったくらいだし。
 うーん、けど、さらにちょっと注文をつけるなら、馬を描く比率が少なかった。登場から大暴れ→調教あたりは馬の個性が出ていたけれど、それ以降は周りの人間模様に比重が置かれすぎた。いや、それは構わないけれど、もうちょっと馬をメーンに見据えたシーンがあってもよかったんじゃねえかと。
 まあ、それも些細なこと。よくこの規模で競馬映画をやってくれた、というのが感想だ。よくぞ、と。というわけで、影響を受けやすい俺は馬主夫人が叫ぶ「カモン、シービスケット!」を聞いて、競馬場に行きたくなった。大井じゃそろそろクラシックスタートか。と、日程表を見たら今日が羽田盃。断然の一番人気は奇しくもシーチャリオット。ああ、だから俺は今朝早く来たのだ。なのに、昼休みにダラダラ日記を書いたのは失敗だった。はたして、間に合うのか?