三枚おろしと一つの聖痕

 三枚おろしくらい簡単にできるんじゃないのか? と思ったのがきっかけだった。先週の話だったと思う。それで、安かった刺身用のアジを買ったのだ。そして、見よう見まねどころか、おぼろげな記憶を辿って三枚おろし。どんな虐殺が行われたのかという台所周辺。三枚のはずが一枚半のような感じになって、これではアジも浮かばれまい。いや、ムニエルにしておいしくいただいたのだった、合掌。
 さてリベンジと、昨夜も山手のスーパーへ。すると、鮮魚コーナーにドン、ドン、と箱が鎮座。氷水にサバが浸かってるではないか。一尾百五十円。これは俺への挑戦だ。ビニール袋に入りきらない大きなサバ。スーパーでこういう風に魚を買うのは初めてだ。この魚の会計時、レジの姉さんがバーコード読み取り装置に一瞬手を持っていったのは見間違えだろうか。そして、その姉さんが昨日言及した一昨日見た姉さんのように見えたのは気のせいだったろうか。
 さて、台所でサバとご対面。百円ショップで買った小さなまな板より大きい。はちきれんばかりの身の詰まり方。強敵だ。しかし、私には前回と違って二つの武器がある。すなわち、ネットで三枚おろしを解説したページのプリンタウトと、こないだの日曜日に購入した百円ショップの出刃包丁。マニュアル世代の私には、モビルスーツの性能が戦力差だと思えるです。
 まず、頭を落とした。落とした瞬間、胴体の方からわけのわからぬ臓物が飛び出してくる。気にせず腹を裂く。なんという量の内臓。あまりのボリュームに、内臓を食うのをやめて、(アジは内臓もムニエた)即座に廃棄。この時点で、まな板に敷いていたキッチンペーパーがエグイことになっていたので、紙交代。ついでに身を洗って、いよいよおろし。ここで予期せぬアクシダン。手前に引いた出刃の刃先がねらい澄まして俺の親指。左手親指の背から出血。けっこう深い。しかしめげてはならぬ、エタノールとオロナインで消毒したら、即座に戦線復帰。して、一枚目削ぎ終わり。お、けっこうキレイ。続いて二枚目。こちらは少し身を残した。しかし、これはかなりの及第点じゃないのか。やはり、情報と得物が違うと結果も違う。ムニエルにしておいしく食いました。しかし、ムニエル以外の調理法を調べねば、風味付けのローズマリーとカレープラントの葉が無くなってしまうのでよろしくない。何事も一歩一歩とサバの頭も言った。