烏賊のさばき

 日記に書きそびれたが俺は先々週の土曜日に「全国豊かな海つくり大会」に出かけたのだ。その日は朝からそこかしこ警察官だらけで、海上保安庁がゴムボートを出して海さらいまでしていた。俺は一瞬荒くれの漁師が集まるからこの警戒態勢なのかと思ったが、どう考えてもロイヤルがらみだろうという、その雰囲気。結局土曜日ではなく日曜日にロイヤル中のロイヤルであるところの天皇皇后両陛下のご来場であり、その様子はNHKの生放送で目にした。土曜日は至って地味であったがその中で俺は「ハマのおかみさんの料理レシピ」というような小冊子をゲットした。イカのさばき方が載っていた。俺はイカを買ったのだ、刺身用スルメイカ198円。目が怖い。よく若い女などが魚の目が怖いというのを「今どきの若いもんは」とバカにするさまなどが噂の東京マガジンなどで噂になっているし、これは何十年来の話だと思うが、何をバカなことをと思う。イカの目はお前、怖い。魚の目だって怖い。たとえばバカにするお前、お前はまな板の上の豚の頭や牛の頭が怖くはないのか。怖くて当たり前だ。違うのか。お前のチンポコを内臓を抜き取ったイカの頭に被せて前後にスライドさせてやろうか。内臓を抜くのにやや失敗した。何か接着部があってそれを手でちぎれとあったが、どこだかよくわからない。適当に引っ張ったら茶色い何かが破けてはねた。内臓は内臓で食すので皿に移しておく。俺は思わずひと舐めしてみたが、イカの塩辛の風味がした。生で舐めていいものだろうか。俺は内臓に引かれる。牛や豚の内臓を愛するのは値段ばかりではない。サンマも苦い内臓を食わずにおれない。皮を剥ぐ。てろてろうまく剥がれたり剥がれなかったり。刺身にするときはもう一枚薄皮を剥ぐ。切ってみる。つまみ食いする。あらかじめ切られたものより美味しく感じるのは努力のせいばかりかしら。さて内臓とゲソ。吸盤は切り落とすと食感がいいとある。面倒だしもったいないのでそのままにする。内臓に味噌大さじ一、酒大さじ一、砂糖小さじ一。混ぜて一煮立ちとあるので電子レンジ。ゲソ切ってサラダ油で炒める。目のあたりは流石にどうしようもない。目だけが残った。炒めたゲソのところに先程の内臓ご一行様投入。からめる。これもレシピにあった。さあいただこう。おお、炒めたの、内臓の味、これがいい。刺身もいい。だが一人に一杯は多すぎるのだ。これは、とにかく、俺にしては珍しく、イカばかりで俺の腹は膨れた。いや、モヤシも炒めたような気がする。イカ一杯は多い。今後の対策。内臓とゲソは捌いたその日に食べる。上の主要部は半分に切って冷凍しておく。一杯で三日。さばくのは面倒くさい。