ノルウェーのテロ〜人が実現する力について〜

ノルウェー連続テロ事件で逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)が事件直前にインターネット上に掲載したとみられる文書の中で、爆薬を購入するための「隠れみの」の起業などを通じてテロを09年から計画、爆弾作りに「80日間かかった」と記していたことが分かった。

http://mainichi.jp/select/world/europe/news/20110725k0000m030063000c.html

 文書の中で筆者は「09年秋、鉱山会社と農場経営の二つをすることを決めた。爆薬や化学肥料を購入できる理由になる」とテロ準備のための起業計画の準備を始めたことを明らかにしている。

 どうも単独犯が爆破事件を起こし、銃による大量殺人を行ったらしい。……という報道が出ていた時点で事件を知った。その後もくわしく続報を追っているわけではないが、とりあえずその線が濃いということで話をすすめる。
 事件の内容を知って思ったのは、なにか絵空事のようだ、ということだ。絵空事というと牧歌的に過ぎるかもしれないが、空想的、妄想的というか、そんな印象だ。まるで映画のようだ、ということだ。
 人間には想像のつかないような大惨事。……というのは、誇張表現としてならいいが、実際のところは違う。想像はしうる。べつに、この事件を想定して対処できたとか、そういう話ではない。世界中のそこここ、人間の頭の中は、そんなことで一杯だ、ということだ。
 ただ、おおよその人間はやらない、できない。ただ、そのうちの僅かが、実際になにかを始めるくらいのことはしてみるし、そのうちの僅かがあるていどのところまで行くだろうし、そのうちのほんの僅かなやつが準備するところまで行って、さらに僅かが実行に移す。ただ、それが成功する確率はどれほどのものだろうか?
 そんな僅かの僅かの糸を伝って、到達してしまうやつがいる。それが起こらないように働く、わずかな偶然すらすり抜けてくる。この事件が犯人の頭の中の通りかどうか知らんが、そうとうのことをやらかしてしまう。驚くべきことだ。
 ……驚くべきことだろうか。アメリカのでかいビルに飛行機が突っ込んだのをテレビで見ただろう。あるいは、加藤智大は自分があれだけの人数を殺せると思っていたのか。やるがわからしたらうまく行き過ぎ、やられるがわからしたら最悪すぎる話。
 じゃあ、逆に、偶然をすり抜けて社会なり人類なりに「いいこと」が起きたりするのだろうか。トム・クルーズヒトラー暗殺に成功していたら、とか? さあ、よくわからない。
 よくわからないが、「いいこと」は一日にしてならず、という気もする。悪いことを考えるやつが人類の半分くらいいるとしても、実行するやつは半分もいないから、それなりにここまで来たというあたり。少なくとも共食いで弱ったところをコヨーテの群れに襲われて滅亡しなかったという、そういうレベルの及第点。たまにぶち壊そうとするやつはいるが、ぶち壊れた試しはなかったから、知性を持ったイカが化石でしか存在していないある種のサルについて論議をすることもなかった。超古代サル文明の謎。『ムー』を愛読するイカ。まあ、そういう未来が訪れたっていいじゃなイカ? 
 まあ、せいぜい、悪いことを考えるやつが、どんなに偶然をすり抜けたところで、人類が滅んだりしないようにしておくようなことが大切だろう。そのあたりの想像は、わりかし冷戦時代に切実にあったものかもしれない。イカにして心配するのをやめたでゲソか? 
 というか、世界滅亡に遠くとも、すり抜けた先で何十人も殺せてしまう銃というのはイカにも厄介じゃなイカ。そのときそいつが持っているのがダガーナイフかP-90かで相当違ってくるのはあたりめだ。だいたい、いまどき市民が銃を片手に反乱を起こしたところで政府転覆なんてできやしねえと思うが、そういう話ではないのかってアメリカの話になってしまったが。しかし、いずれにせよ、あんまりやばくない方向へ、方向へ、というのが最初の人類たちが現れてからの大雑把すぎる流れではあろう。
 しかしまあ、こうやって人類進歩を述べたところで、銃を構えたブレイクビルの目の前に立ったらどうだろう。「人類万歳! 進歩弥栄!」とか叫べるだろうか。無理に決まってる。「助けてください……」とか唸る、撃たれる、こと切れる。そんなものだろうし、それが嫌だから人類、ときに自分の手足に鎖を繋ぐ。いつの日かがんじがらめになったそれを外す、それはどこかの星でモノリスに触れるより十大な到達点であると信じる。56億年くらい先か。