俺は鰹を食べた

 俺は昨夜スーパーで魚を買い、魚を三枚におろしてムニエルにするつもりであった。しかし、おろすべき形態を持った魚は一尾二百九十八円のアジのみであった。アジは大きかったが値段が高すぎた。俺は迷った挙げ句、鰹のたたきを買った。この間、テレビで石塚英彦が鰹を食っていたのだ。そこはたぶん土佐で、藁を焼いて鰹を燻していた。そして、ショウガや生ニンニクスライスなどと一緒に食って「まいう〜」などと言っていた。俺も鰹が食いたくなったっていいじゃないか。
 俺は家に帰ってから炊いた米に、新タマネギのスライスをひいた。新タマネギはちゃんと水にさらしたはずだ。そして、刺身庖丁で切ったたたきを並べた。一枚だけついていたしそものせた。その上からショウガとニンニクをたっぷりすり下ろして、付属のたれをかけた。俺は食った。俺は食って胃がおかしくなった。そして、今朝も胃からニンニクというかタマネギというかショウガというか、何か禍々しいにおいが立ちこめてくるのに気が付いた。
 俺は行きのコンビニで口臭消しを買うことにした。ガムではだめだと思った。小林製薬のブレスケアというのが目に付いた。五百円以上もする。しかし、俺はその透明の緑色の球が好きになった。俺は透明で色の付いたものが好きだ。ましてや小さな球となるとたまらないものがある。それを食いたくなるのも当然だ。俺は鰹より高いブレスケアを買った。買って驚いた、噛まずに飲めという。俺は従って噛まずに飲んだ。一粒も飲んだ。しかし、しばらくしても効果が感じられないので、もう一粒口に入れた。口に入れてしばらく転がした。しばらくすると苦い液が流れてきた。舐めてはいけないものだったのだ。しかし、効果もあったように思える。不意にゲップのようなものをしたら、さわやかな香りになっていた。俺も息だけ福山雅治になったのかと思うと、五月の寒空もひとしおである。