エンペラーズカップ100周年記念 天皇賞(秋)展望

 数ある馬券必勝法の中でも、タカモト派は異端と言っていいだろう。タカモト派は、全てのレースがオペレートされていることを前提に、出馬表や時の話題など、さまざまな情報の中に隠されたサイン(=暗号)を読み解く、という予想法である。ある種の競馬ファンには、その考え方自体が許し難いものであり、反発も少なからずある。しかし、しかしだ。ちょっと年季の入った競馬ファンなら、「終わってみればこれかよ」という場面に何度か出くわした経験があるのではないか。終わってみればイチローの背番号かよ、マンハッタンとアメリカかよ、春は全部自動車の名前絡みかよ……。
 このようなつぶやきが、87年の天皇賞・秋でも聞かれたかもしれない。この年は、皇太子時代の今上天皇がご観戦されていたのである。そして結果は、ニッポーテイオーレジェンドテイオーの帝王決着。……これは今日の日刊スポーツ紙面で知った話だが、俺は天覧競馬という特異な競走において、無視できる話とは思えない。ここはにわかタカモト派になるのが得策だ。
 今年の出馬表を見る。やはり一枠一番ヘヴンリーロマンスが気になる。何と言っても紀宮様のご成婚こそ一番の話題。白無垢の帽子を被った牝馬のロマンスは無視できない。また、同一枠の安藤と鞍上松永の名字を組みあわせれば「安永」となり、これは元号(江戸中期)でめでたい。さらに、アンカツスズカマンボ天皇賞馬で母父はキングマンボ。そう、エンペラーとはいかないまでも、キングは見逃せない。ならばキングストレイル。鞍上はこれまためでたい福永で、さらに隣枠の幸と繋げれば「幸福」を形作る。もう一頭忘れてはならないのはアサクサデンエン記紀の逸話や新嘗祭を繙くまでもなく、天皇と稲作は密接な関係にある。また、この「田園」の母親はホワイトウォーターアフェア。ホワイトウォーター、すなわち「白水」は米のとぎ汁を意味するのだ。さらには一枠と連対すれば紅白めでたい三枠のこの馬、要注意である。
 ここまで来れば馬券も簡単。枠連でぞろ目を含む一、三、四のボックス。これで十分だ。逆に軽視すべき馬も何頭かいる。民主政治の権化であるリンカーンには多少ご遠慮ねがいたいし、メイショウカイドウのカイドウ(海棠)は楊貴妃の花で、鞍上幸といえどもこれはパス。それと同枠のハーツクライも縁起の悪さが懸念されよう。いずれにせよ、十八頭の神馬によって織りなされ、五穀豊穣と弥栄の祈念を込めた生ける祝詞こそが今年の天皇賞競走である。馬券を獲ってこの神事に与したいと思う次第である。