隧道《トンネル》

 元町《モトマチ・サイド》に向かって風が吹いていた。手前には三羽の若い鴉がじゃれ合って、喚きながら飛び去っていく。排気ガスと反吐で塗り込められた隧道《トンネル》が、いつもに増して暗い。
 壁鳩《カベバト》の姿が見えない。
 いつもは入り口の横にある壁に、鳩の一群がへばりついて暖を取っている。本牧通り《ホンモク・ストリート》に射す日光は少ない。ときおり、業務用運搬車《トラック》が轟音を立てて通り過ぎる。
 異変は歩行道のすぐそこ、真ん中にあった。丁寧に横たえられたような鳩の骸。首の周りだけ丁寧に削り取られたようになって、白い骨がオレンジ色のライトに照らされている。両の目は醜悪に膨れあがって、どこも見つめてはいない。
 元町《モトマチ・サイド》に向かって風が吹く。ちりぢりになった羽毛が俺と同じ方向に流れていく。自転車で幼稚園に子どもを送る母親《サイクル・マム》たちも、腕っこき《ホットドガー》のジョッキーみたいに鳩の骸を避けて流れていく。羽毛の群は不規則で、それでも統一した意思を持って、隧道《トンネル》の中を舞い続ける。俺は隧道《トンネル》の出口がまぶしくて耐えられない。