『Songs From The Labyrinth』Sting

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  • スティングの『ラビリンス』。原題の一部を取っただけの邦題だが、原題とは趣が違うように思えるが、どうでもいいか。
  • スティング、ではなくジョン・ダウランドというところで買った一枚。一曲を除き、この1563年生まれの「世界初のシンガーソングライター」による楽曲。ヨドバシカメラ横浜店、新品。スティングはほかになんの一枚も持っていない。エディン・カラマーゾフというリュートの第一人者とのコラボ。ジョン・ダウランドもいっさい聴いたことがない。
  • ジョン・ダウランドの名を知ったのはフィリップ・K・ディックの『聖なる侵入』だ。この小説には、ジョン・ダウランドの曲をアレンジして演奏する宇宙的人気歌手「ザ・フォックス」が登場する。いうまでもなく、ディックの愛した音楽でもあるのだろう、ラフロイグを愛したように。ひさびさに『聖なる侵入』を読み返し、しばらく前にラジオでこのアルバムが紹介されていたのを思い出した。
  • ディックには『流れよ我が涙、と警官は言った』という印象的なタイトルがある。このアルバムの四曲目に「流れよ、我が涙(ラクリメ)」って曲が元だったのか。『聖なる侵入』は人に貸しているので、このアルバムと重なる曲があるかどうかはわからない。
  • さて、このアルバム。第一感は眠くなりそう、というもの。だが、眠りたくなるなんていうのは、心地よい気持ちにさせてくれるということ、上質だ。ヘッドホンなどで聴くと、このリュートという楽器のいろいろの音が楽しめていい。いいぞ、すごくいいぞ。
  • ザ・フォックス(リンダ・フォックス)とは違い、こちらは現代的アレンジなしの真っ向勝負(なのだろう)。それもいいよ。
  • ところどころに、失意と流浪の人、ジョン・ダウランドの手紙の朗読が入る。はじめ妙だと思ったが、これが入るおかげで、単なる古音楽のアルバムではないという印象を与えてくれる。伝記映画のようだ。
  • M5「あなたは見たのか、輝く百合を」が非ダウランド曲。これも同時代の曲だが、内容がエロくてたいへんよろしい。
  • M8「一番低い木にも梢はある」。原題「The lowet trees have tops」。邦題は意味が取りにくい。それはひとえに、「梢」の意味をあいまいにしか把握していなかった俺のせいかもしれない。しかし、topに呼応するのは「木の末」である梢でいいのか、と適当にケチをつけておこう。
  • M13「来たれ、思い眠り」はディック好みしそうな一曲。あと、M19「もう泣かないで、悲しみの泉よ」、M21「暗闇に私を住まわせて」もか。このあたりは暗いが、ほかは艶やかな色恋の歌多いかな。
  • というわけで、ダウランド。この人が欧米で今なおどれだけの知名度があり、身近な存在なのかは知らないが、ディック―スティングラインでつながったのは、俺にはとても奇妙に思える。逃げ出したPKD型レプリカントid:goldhead:20060216#p3)がそそのかしたのか、とも思う。クラシック演奏家などによるものよりも、スティングだからこそ、ディック経由で興味を持った俺としては面白かったというわけだな。