日曜日の明け方、あまりにも風音が強くて目が覚めました。テレビをつけてみたら、働くおっさん劇場みたいな番組をやっていました。
- 高島龍峰さん……ちょっと強面だけれど、とっても優しい声としゃべり。なぜか運送業者の駐車取り締まり除外をとくにアピールしてフィニッシュです。
- 浅野史郎さん……恐怖政治のような都政を変えられるのは自分しかいないと自信満々の浅野さん。原稿を見ないで話すし、上半身のアクションもあるんだけど、表情が変わらないのがロボットみていでちょっと怖いかも。あんまり見どころのあるおっさんではありませんでした。
- 内川久美子さん……女性の政治家が少ないという主張。それには一理あるというか、都知事選に十数人立候補して女性が一人もいないのでは、バランスが悪いという気はしていました。そういう意味で、内川さんの立候補は歓迎します。
- おがみおさむさん……慶應大、大学院卒のエリートおっさんの登場。しかし、普通の人、平均的日本人とのこと。ときどきどきっとするくらい言葉に詰まるのが印象的。オリンピックは「東京防災オリンピック」にすればよろしいとのこと。ハーバードやパリ大学の友人と都民の叡智を結集させて、すばらしい東京にしますと。自民党とか民社党とかの枠にとらわれないそうですが、後者はもう無いと思う。ジョン・F・ケネディのかかげた理想のたいまつを受け継いで頑張っているそうです。
- 黒川紀章さん……雰囲気と見た目に特徴のあるおっさんの登場です。なんか肩書きとか多いけど、こういうおっさんってそういう感じです。「ダス・クロカワ・マニフェスト」、いいです。セプテンバー・イレブン、いいです。五十年前に共生という言葉を作ったそうです。オリンピックは中止して、地域の福祉センターづくりを、だそうです。
- 高橋みつるさん……衆議院茨城一区、横浜市長、東京都知事、などに立候補したそうです。深々と頭を下げて、一言目からインパクト大です。マスコミ批判から入るあたりなかなかの見識です。そうです、四人しか立候補していないわけじゃないんです。歳出を棒グラフや折れ線グラフでわかりやすくします。バスレーンをお客樣の乗ったタクシーに限り、バスレーンの通行を認めるようにします。最後の一つはプロならではの目線でしょうか。そして、「治安のために安心カメラを設置します。安心カメラとは監視カメラです。監視カメラではイメージが悪いので、安心カメラにしました」という正直さは最高です。いつか自民党の政治家がぱくるかもしれません。
- 山口節生さん……白フレームメガネのインパクト超大のおっさんです。「こういう就任挨拶をしようと思います」という内容の政見放送とは斬新です。ケネディやキング牧師の言葉を英語で引用する力み具合にはノックアウト。けれど、演説はタイムオーバーで残念。
- 石原慎太郎さん……米軍移転に暴力団一掃、環境対策と大言壮語のおっさん登場です。自信満々な反面、どこか一人では絵にならない感じ、心細げな感じもあります。カメラが一人のおっさんを映せば、映されるのは一人のおっさんに過ぎないということです。
- 外山恒一さん……「今どき、政治犯として」とナレーターに言わせたのはおもしろい。しばらく黙っていたので、このまま黙るというインパクト大な政見放送かと思いましたが、芝居じみた声で演説開始です。しかし、まだまだ若くて、おっさんとしての魅力はあまりありません。自分を客観視できてしまっているようです。キャラを作ってしまっているようです。これではまだ足りない。高橋さんや山口さん、中松さんこそが真の少数派なのではないでしょうか。私は、もし政府(政体)が転覆させられるとすれば、彼らのようなやむにやまれぬ、無我無心の思いであると思いたい。
- 佐々木崇徳さん……なにわのおっさんです。ただ、このおっさんは自らの裁判についての私怨ぶちまけ系、たしか神奈川県知事選にもそんな人がいました。演説のほとんどが裁判の話なのですが、冒頭でさらりと「皇居を都民公園に」なんて爆弾発言。勝訴なんとか批評家なのに、「訴訟」を噛むあたりは見どころでした。
- ドクター・中松さん……黒川さんや石原さんのように、肩書きいっぱいのおっさんです。これはもう、プロのおっさんとしか言いようがありません。北朝鮮のミサイルをUターンさせる発明があるんなら、都知事にならなくても発表してください。「私は旗本として四百年東京にいる」ってのは長生きです。ハリウッド映画楽しみだな。オリンピックは「タレントオリンピック」にしようというのだけれど、お笑いウルトラクイズみたいなのを想像してしまいます。しかし、この人が「私はしがらみがない、縁がないという」と、それはもう本当としか思えないのがすごい。真の個、独立、それをなしえた人なのです。彼は彼を発明したのです。
……というわけで、なかなかインパクトのあるおっさん劇場でした。おがみさんから山口さんにいたる流れは奇跡的でした。そして、この流れに入ると黒川さんはもちろん、石原さんですらおっさんに過ぎない。あるいは、外山さんの言う少数派の一番が石原さんではないのか、とすら思えてしまう。正直、私は早朝のハイも手伝って、内臓がねじれるくらい笑いそうになりもしました。しかし、私は彼らをあざ笑うわけではありません。皆口をそろえて都民の声を聞きたいという。しがらみのない政治をしたいという。普通の人の政治をしたいという。その思いは共通していることでしょう。我々の多くが日頃感じていることでしょう。もしも私やあなたがあの場に引き出されたら、やっぱり目安箱的なことを言うくらいしかないかもしれません。彼らは、圧倒的に間違っているかもしれない。けれども、そこには‘かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂の精神’がある。俺はそう思う。分別の世界で否定され、否定しきれないものがある(人もいる)。そういうワンランク上のおっさんの中から選ばれる、さらにハイグレードなおっさんは、そこらあたりの何ものかをぜひ汲んでもらいたい。そう思う次第であります。