今だからこそ『なぜ君は総理大臣になれないのか』を見る

 

さきの衆議院選挙、小選挙区平井卓也を打ち破った小川淳也議員のドキュメンタリー映画。監督は大島渚の息子である大島新。「NONFIX」や「ザ・ノンフィクション」、「情熱大陸」も手掛けてきたという監督だ。

メーンになるのは民進党分裂から希望の党になったさいの選挙になるだろうか。そのとき、そのときはなんとなく流れをわかっているつもりでも、あらためて見返すと、ぜんぜん覚えていないな、と思った。

渦中にあった小川議員にとっては、そうとうな決断であったろう。希望の党のボスである小池百合子に対して、「打倒小池」とすら言っている。そして、「無所属がかっこいいですよね」とも。

そうなった理由、小川が前原誠司の側近であったからというが、そのあたりの事情がもっと知りたいな、と思った。ある政治家が、別の政治家の「側近」であるとはどのようなことか。そのあたりが、われわれには見えない。「子飼い」であるとか、「派閥」であるとか、それが具体的な日常の政治活動においてどのようなものであるのか。そのあたりはカメラの入れないところなのだろうが、この映画についても、そこらへんはわからんな、と思った。

というわけで、選挙運動の中身についてのドキュメンタリーになるわけだ。よく撮れている、などといえば上から目線のようだが、そのような感想だ。とはいえ、目新しいとか、今まで見たこともなかった、とか、そういうものでもない。「選挙」については目新しいものではない。

とはいえ、小川淳也という政治家という具体的な存在に目をつければ、それは目新しいし、新鮮だ。野党議員の、それもあまり名を知られていない政治家についてのドキュメンタリーとして、これはなかなかに得難いものだ。われわれは名のある有力政治家がなにをしているのかおおまかにわかっていても、あまりわかっていないし、地元でもない選挙区の有名でもない政治家についてなど、まるでわかっていない。そう思った。

政治家としては、わりと政治家に向いていないかもしれないと自己分析もする小川淳也。なるほど、こういう政治家もいるのかと思った。それでも、ちゃんと政治家やってる東大卒の元官僚じゃないかと思わないでもないが、まあこれでも国会議員のなかではやや異端の方に位置づけられるのであろうか。そのあたりはよくわからない。

おれの考えでは、ウィングの広さなどというところに収まってほしくない。もっと政治家というのは多種多様なものであってほしいと思う。翼がなんだ、三つ目、四つ目の目になってやろうとか、胃をもう一つふやそうとか、すごくでかい爪になろうとか、鱗に覆われた尻尾になってやろうとか、そういう広がりがほしい。翼の左右だけではつまらない。

それはともかくとして、小川淳也である。直接この映画を見た人に限らず、この映画の人だなという話が広まったのか、わりと話題の政治家になったようでもある。べつの本も出たし。無名の政治家ではなくなったのかもしれない。

そして、こうなった。

立民 小川淳也氏 代表選への立候補に意欲「腹は固まっている」 | 2021衆院選 | NHKニュース

立憲民主党の枝野代表が辞任する意向を表明したことを受けて、小川淳也氏は高松市で記者団に対し「私なりの決意、腹は固まっている」と述べ、代表選挙への立候補に意欲を示しました。

野党第一党の代表選挙への出馬を表明し、それが全国区のニュースになった。野党の再編成に右往左往する無名議員から、一気に全国区だ。立憲民主党の国会議員20名の推薦人を集められるかどうかはわからない。とはいえ、「君は総理大臣になれないのか」度でいえば、ゼロに近かったところから、数パーセントまで目が出てきたということになる。そこはおもしろいと思う。

はっきり言えば、おれは小川淳也議員の政策についてよく知っているわけではない。この映画以外での話といえば、今回の選挙で維新の立候補者に出馬取り下げを迫ったとかという報道くらいである。それでもまあ、この映画を見たあとならば、こんな政治家がトップを狙ってもいいんじゃないかとは思う。むろん、ある与党のある世襲政治家についてのドキュメンタリー映画が作られて、それを見たら、「この人でもいいんじゃないのか」と思う可能性はある。映像作品というのは強いものだ。

でもまあ、とりあえず、政治にちょっと関心がある人ならば、『なぜ君』は見ておいていいだろうと思う。右も左も関係なく、とりあえず見ておいていい。与党支持、野党支持、関係なく。これをもって、純粋に国のこと、政治のことのみを考えている政治家がいるとか、政局に興味のない政治家がいるとかは断言できない。断言できないけれど、ある一例として、見ておいていい。そして、そのような視線で、自分の選挙区の政治家を見ることができればいいと思う。

 

追記:本作での見どころのひとつは、井手英策慶応大学教授の応援演説であって、井出さんこそ政治家になったらいいのではないかと思わせるくらいである。ちょっと泣けるくらいの代物である。

 

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