缶コーヒーの思い出

 小学生のころ、中学受験のための塾に通っていた。時間は夜だ。俺は授業中の眠気に悩まされた。朝昼と学校に行って、夜塾に行くと眠くなる。当たり前の話だ。塾は嫌いじゃなかったし、小学校の教師に比べて、塾の講師の講義がどれだけ刺激的で面白かったことか。でも、眠くなるのだ。
 悩んだ俺は、授業前に缶コーヒーを飲むことにした。ぜいたくなガキだ。だが、これが思いの外効果覿面であって、まず眠くならなかった。カフェインが小さな体に作用していたのか、一種の思いこみ、プラシーボだったのかはわからない。
 ただ、プラシーボとは言えないだろう副作用があった。いや、作用と言うべきだろうか、利尿効果、おしっこがまん。小学生にとって、というか、大学生だろうとあんまり授業中に「センセー! トイレー!」というのは避けたい事態。俺は意志で乗りきった。むしろ、トイレを我慢することによって眠気を防いでいたのだろうか? しかし、眠気がないところで、尿意に頭を支配されていては、勉強もなにもない。
 いずれにせよ、これは俺が直面した大きなジレンマであった。一人の力では解決できないと悟り、両親に相談することにした。「あの、相談したいことがあるんだけれど……」。
 と、内容を切り出して親、拍子抜け。どうもそのときの俺の態度が、やたら改まっていたらしく、進路のこととか、いじめのこととか、あるいは、「好きな女でもできたのかと思った」などと言われる始末。考えてみれば、それまで俺が親にこんな風にシリアスに相談話を切りだしたことはなかった。そして、その後も無かった。この件があったからというわけでもなく。修羅場はあったけどな。
 それはそうと、なんで急に缶コーヒーか。今し方、缶コーヒーを買ってきて飲んだからだ。俺の生活に缶コーヒーはない。割高で、しかも無糖も味気ないし、糖と乳入りでは甘ったるい。だけれども、三十近い俺、また眠気に襲われた。最近の「寝つきは悪くないが、朝早く目覚める病」(id:goldhead:20070411#p1)が治らない。さすがに深夜三時ということは少ないが、五時、六時くらいならざら。そのあと、なかなか二度寝できない。
 それならば、ということで、逆に夜更かししてみたのが昨夜。三時近くまで起きていたか。それで、今朝はちゃんと目覚ましのアラームで目が覚めた。
 が、それがなんだというのだ。睡眠時間が少ないのは変わらない。それどころか、無茶苦茶眠い。当たり前だ、当たり前だ。それで俺は、とりあえずエスタロンモカ食って、外気を吸うついでに缶コーヒーを買ったんだ。小学校以来なわけもないが、久々だ。それでまた、親にあらたまって相談に行こうか。お、打ってたら目ぇ覚めてきた。よし、働くか。