君はドッポロゲンガーを見たか

 初めに気づいたのは、いつだったかの飛騨牛偽装事件のニュース。そこに映っていた、説明を求める元社員。次に見かけたのはいつだったかの上りの終電。斜め向かいに座った、日焼けしたサーファー風の兄さん。そして、昨日、本厚木の駅のホームですれ違った、スキンヘッドに近い頭の若者……。
 みな、俺の持っているのと同じポロシャツを着ていた。俺はそのとき違う服を着ていたけれども、あれは確かに俺も持っているやつだ。正直、困惑している。こんなことは今までの人生でなかった。自分の持っているのと同じ服を、三回も見かけることはなかった。
 もちろん、「今流行のブランドの、雑誌か何かで紹介された人気のやつだからか」とか、「俺は人と被るような大量生産品なんて着ないからね」ということではない。むしろ、ユニクロで被るタイプ。ユニクロでおばあちゃんと被って赤面のタイプ。いや、「ユニクロで被った」とかいうならまだわかる。その可能性は大きい。だが、このポロシャツは、伊勢佐木町で言えばユニクロの向かいの安売り量販店で買ったものだ。1,480円か1,980円だったと思う。もちろん中国製大量生産品だ。しかし、今まで同類の服を買って、というか、同類の服しか買わずに生きてきて、こんなことはなかった。
 ひょっとしたら、このデザインがあまりに奇抜で目立つから、気づいてしまうだけ? いや、それはないだろう。白地に、胸のあたりに赤とオレンジとベージュのライン、その上に細い白いラインなどが入った、まあたいして派手でもないものだ。俺の趣味の悪さからいえば、大人しすぎるくらいのもの。はたしてなぜ?
 ……と、考えたところでわからん。しかし、わかったことは二つ、「世の中には自分と同じポロシャツを着た人間が少なくとも三人いる」、「自分が持っているのと同じポロシャツを着た人間を見ても、死なない」。でも、偶然同じポロシャツを着て三人集まったら、たぶん死ぬと思う。