九月の終わりに鳴く蝉の悲しさよ

 仲間たちはとっくに去ってしまったあと地上に這い出してきて、九月の終わりに一匹で鳴く蝉はなんとももの悲しいものだ。けれどもお前はただひとり世界を占める主人公だ。それに比べて我が身はいつ鳴くこともなく、延々と地の底を這い回るばかりだ。……というような感傷を漢詩か何かにできたらかっこいいと思うのだけれど、そんな知識はどこにもないのだった。
 あと、ゴキブリが怖い理由の半分はゴキブリが怖いからだろうけど、あとの半分はゴキブリくらい大きな生き物を殺す機会がふだんあまりない人はないのだからではないかと思う。秋のゴキブリももの悲しい。でも、連中は弱ったふりをしているだけだから同情など不要なのだった。