『イリーガル・エイリアン』ロバート・J・ソウヤー

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

人類は初めてエイリアンと遭遇した。四光年あまり彼方のアルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。片脚を切断し、胴体を切り裂き、死体の一部を持ち去るという残虐な手口だった。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン…世界が注目するなか、前代未聞の裁判が始まる。

 ソウヤーってのはハズレがない奴だ。全作品読んだわけじゃあないけども、そう思う。たとえば、野球の日本代表を選ぼうとする。でも、選べる人数は限られている。そんなとき重宝するのが、ピッチャー以外ならキャッチャーまで全てのポジションをこなせるとか、一番から九番までどこでもこなせるとか、極端に言えばそんな選手だ。ユーティリティ・プレイヤー。サッカーで言えば、オシムが退いたあとあまり聞かれなくなったけど、ポリバレントとかいうやつだ。本職はサイドバックだけど、ボランチもこなせるとか、そんなの。ソウヤーはそういう奴だと思う。SF地球代表を選ぶとき、そつのない奴を一人入れておこう、そうなったらソウヤーだ。
 本作はSF裁判物だ。裁判物の小説として読める。しかも、宇宙人が容疑者という点を除けば、アメリカの陪審員制度はこのようなものなのか、と、かなり勉強になる(ような気になる……たぶん、かなりリアルにやってるとは思うけど)。こんなときに「異議あり!」で、判事はこんな判断をするのか、とか。あと、陪審の選び方や対陪審テクニック、O.J.シンプソン事件についてなど、ためになることこの上ない(ためになったところで活かす機会はないが)。そしてもちろん、SFだ。ファーストコンタクトものとして十分な魅力を備えている。その上、天文学や生物学など、サイエンス要素がきちんと織り込まれているのも見逃せない。その上、宗教、哲学、神学的要素まで忘れないのがさすが。ちょっと分厚いし、SF読むのひさしぶりだったけど、一気に読み切った。途中でやめるのは無理。
 と、いうわけで、たとえばSF読んだこと無い人になにか勧めるとしたら(と、人に勧めるほどSF者ではないのだけど、俺)、とりあえず俺はソウヤーあたりを勧めると思う。「それって、凡庸ってこと?」などと勘違いされたらこまるが、高いレベルで安定しているのだ。そりゃあP・K・ディックのようにぶち抜ける破壊力(時にストーリーまで破壊)があるわけでもないし、ヴォネガットやギブスンのような確固たる世界があるわけでもないだろう。でも、やっぱりおもしれえんだもんよ。マイ・ベスト作家というのには挙がりにくいかもしれない。でも、やっぱりこれは読まなきゃ損だよ、とさ。
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 あと、この文庫本の表紙、どうだろうか? ばっちり宇宙人の姿が描かれている。想像の楽しみを削がれる? 否、俺はこれはありがたいと思う。ちょっとこのくらいは押さえておきたい、というのはある。『リングワールド』のパペッティア人とか最後まで脳内でうまく再生できなかったもの。

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