スリと痴漢の説話

 「朝の電車の中で後ろの男が手をお尻のあたりに押し当ててきてもぞもぞ触ってくるので、痴漢だと思ってハンドバッグでガードしたら、中の財布をすられてしまった
 ……という体験談を聞いた。いろいろ考えなくてはいけないところのある話のように思える。
 その男はスリだったのか、痴漢だったのか。スリだとしたらほとんど絶望的に下手くそだと言わざるを得ない。痴漢だってはじめ気づかれないように触り始めるものではないのか。露骨にばれてどうするのだ。その上、獲物であるハンドバッグをわざわざ差し出されるのである。これほどの屈辱があろうか。人生考えなおした方がいいんじゃないのかと思う。
 しかし、もしスリが「この人痴漢です!」と誤認逮捕(?)されたらどうするのか? 「いや、違う! 俺は痴漢なんかじゃない! スリだ、スリ! 尻じゃない、財布だ!」と主張するのであろうか。しかし、窃盗と痴漢では窃盗の方が重そうだ。素直に「すみません、出来心で尻触りました」などと言って、すぐに罪を認めて釈放される方向で行くのか。とはいえ、それを認めた上でスリの容疑などが発覚したあかつきには、なぜか強盗強姦などということになって、懲役30年などと言われるかもしれない。二兎を追う者は一兎をも得ず。尻か財布かはっきりさせた方がいいと思う。被害者から尻と財布の狙いを誤認されるくらいの腕なら、人生を考えなおした方がいいんじゃないのかと思う。
 そういうわけで、人間にはいくらでも考えなおし、やり直す道があるのだと思う。人生、尻か財布かばかりではないのだ。すなわち、色欲、物欲にまみれてはいけないのであって、痴漢には財布を与え、スリには尻を与える、そのような行いについてわれわれは常に考えなくてはいけないのであった(自分でも何を言ってるのかよくわからない)。