上州屋石川町店に見るマーケット・デザインの肝

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 ※上州屋石川町店を知っている人向けです。
 上州屋石川町店がリニューアル・オープンした。あの殺人的にせまい店内を、どう改装する余地があるのだろう……。などという予断は激しく裏切られた。相変わらず買い物カゴは店外の目立たぬところに置いてあるが、入ってみてパッと開ける視界。右手には拡大された惣菜品が並び、左手には生鮮野菜、果物のコーナーが延びる。なんという変わりよう。生鮮食品コーナーをどんつきまで行けば、左手に加工食品の冷蔵棚。向こう正面にはガラスを配しており、店内が広く見えるというトリック。そちらからくるりと回って、左手に飲料、右手に酒の棚。左を向けば、そこにレジ三つ。三つもだ。かつての改札口の駅員よりも狭い仕事場。サッカー台は存在せず、袋入れは店員の領分というのは変わらず。まあ、ともかく、また入口に戻るのも容易。
 そうだ、買い物をする場所にとって必要とされるのは、「買おうかな? どうしようかな?」と迷い、一度スルーしたものを、「やっぱり買おう」と、それをさせやすくする構造じゃねえのか。前の上州屋石川町店は、ほとんど逆走不可能といってよい構造であった。とくにパンが買いにくかったというのには、同意してくれる人が多いのではないか。
 同じような例は、スーパーTOP山手店のリニューアルでも見られたことである。

以前は、長い一続きの棚が端から端まで伸びており、それが幾つも並んでいるという配置。そのせいで、一度奥まで進んでしまうと、入口近くの野菜売場に戻るためには、いちいち建物の内周に沿う形で大回り遠回りをしなければならなかったのだ。細かく言えば、レジの横から抜ける細い道もあったのだが、それはなんだか「レジを通さずに外に出る」ような動きにならざるを得ず、実用的ではなかった。そして、この点が今回の改装で改善。棚に切れ目が出来たので、直線で野菜売場、鮮魚売場へ戻れるのである。この利便性の高さに、思わずうっとりして、いったん奥に進んだ後、わざわざ魚を買いに戻ったほどである。

スーパーマーケット・トップ・リニューアル - 関内関外日記(跡地)

 そうだ、まったく一緒だ。なぜ、最初からそういう構造になっていなかったのか不可思議なくらいだ。まったく客の動線というような思想がなかったのだろうか。それとも、冷蔵の棚のサイズなど、技術的な制約だろうか。あるいは、最初はきちんと考えられていたけれど、増設などを繰り返す内に九龍城化したのだろうか。そのあたりはよくわからない。よくわからないが、世の中にはまだ不便な構造の店も山ほどあることだろう。俺は、そんなスーパーを、片っ端から通りよく、買い物しやすくしたいと思う。お客さまにとっても、スーパーマーケットの経営者、従業員にとっても、それはすばらしいことだからだ。俺は、世の中のスーパーがみな通りよく、買い物しやすくなる、そんな未来を夢見て、今日も夢ばかり見て、明日も夢見て、「(食品館)あおば(元町店)の鮮魚のパッケージのシールが変わってなんか高級感出たな」とか思ったりしながら、そんな風にして生きていきたいと思っています。おしまい(※本当は「人生も社会も、良いスーパーマーケットのように。‘買おうかな? どうしようかな?’と迷ったものを、もう一度手に取りやすいようになればいいのに」という、とてもありがたい話をする予定でしたが、あおばの鮮魚に気を取られたため中止します)。