どうしてこうも中途半端

 打撲痛、筋肉痛。九月も終わりなのにじわじわと暑くなる部屋、居心地がよくない。足の踏み場もない足も伸ばせない、テレビはつまらない。
 会社に行こう。エアコン、広くはないが狭くはないスペース。インターネットとパソコン。冷蔵庫もあるし、お湯も沸かせる。トイレもある。本でも読もう。本を読んで、日記でも書く。ちょっと仕事もする。
 ああ、ここが俺の部屋だったらいいな。俺の部屋。俺の個人事務所。俺一人なら、快適だ。そうでないのが残念だ。だいたい、個人事務所といっても、事務がないのに事務所もない。そもそも、仕事がない。それがネックだ。
 なにか、一芸に秀でていればよかった。そう思う。仕事場を持てるくらいのフリーランス? というのはかなり難しいかもしれない。自宅兼オフィスくらい? そんな環境でどう働くのか想像がつかない。
 まあ、仕事場の話はどうでもいい。一芸が欲しかった。なんでもいい。なにかだ。仕事だったら、「この分野の話はとりあえずわかる。ひとこと言える」というような。仕事でなくて、趣味でもいい。「これが私の趣味です。かなりきわまってます」と胸を張って言えるようななにかでもいい。俺にはなにもない。
 なにもないというか、散漫だ。勉強も、仕事も、生き方も、趣味も、ぜんぶバラバラだ。ぜんぶつまみ食いだ。これというものがない。一貫していない。一気通貫をあきらめて、タンヤオもつかないピンフのみ、というような感じ。下手すれば、役もつかない暗刻を抱えて、リーチのみ、かもしれない。裏ドラもつかない。そもそも、上がれるつもりでいるのもおかしい。
 自分でいうのもなんだけれども、自分をまったくの無能者とは思わない。もちろん、結果的に、それを用いたり、活かせなかったりするということで無能のゼロではあるかもしれない。しかし、生まれ持ったなにか、宇宙がはじまってからいろいろの因と果があって俺にいたった段階でのなにかについては、そこまで低くない能力を持った分野もあるはずだ。
 でも、なんだかわからないが、どこがメーンだかわからない。「自分は何ができそうか(何ができなくはないか)」、「自分は何が好きか」というところに、答えが出せない。ただ、「算数はできない」、「腕力はない」という二点くらい。どっちつかず、二兎を追う者は一兎をも得ず、ジョブでいえば赤魔導士、自転車でいえばクロスバイク。そうだ、しょうもない安クロスバイクというのは、俺みたいだ。実用性も小さい上に、専門性もない。性能を追求してるわけでもない。俺にお似合いだ。
 だから、思春期になってからの、「進路選択」というものが大苦手だった。将来の夢、とか。何をやりたい、とか。そんなもの、いっさいなかった。自分には適性というものがないんじゃないのか、という気になった。嘘でもいいから、「将来はタイヤの溝掘り職人になりたい」などと言うことができなかった。
 言い訳。モラトリアム? これが長かったか。たとえば、中高一貫校に入ったこと。もし、高校進学時に進路を選択することになれば、そこに何か色づけの機会があったかもしれない。
 大学もそうだ。俺が慶応の文学部を受けた理由は、小論文と辞書持ち込み可の英語、マークシートの世界史という科目にすぎなかったし、たぶん受かったのも科目のせいだろう(ほかは滑り止めにしか受からなかった。直後に原付の試験に落ちた)。それで、とくに目的もなく入り、大学側が言うには「文学部っていうと就職に不利とか思ってるかもしんねーけど、学校の名前でとりあえずどっかには就職できるから、好きなことやれ」とかいうで。そんで……、好きなことってなんだ? 興味のあることってなんだ? 「今日、大井のナイターだったな」。浜松町の駅で東京モノレールに乗り換えて、俺は大学をやめてニートになった。
 ひきこもりとか、ニートでいることは得意だ。これに関しては、天賦の才能、プリンスリーギフトがあるかもしれない。そりゃ、世界ニート選手権に出られるはずもないが、中区民大会で5位くらいには入れるかも、くらいの自信はある。
 ……ニートでいることの才能ってなんだ? そんなもんあるのかわからないから、勝手に考える。「ニートなのに稼ぎがある」とかいうのは論外だ。かといって、完全に廃人というのも違う。なんというか、なんにもしないのにそれなりに精神の安定が保たれていて、親か誰かの財産を食いつぶしていく以外は人に迷惑もかけない、というような。生産的ではないけど、いきなり小学校に突っ込んでガキ殺したりしないよっていうような。健康的な。なんか放っておいても、勝手に一人で本とか漫画とかゲームとか競馬とかしてよろしくやってるんで、みたいな。
 あ、これが俺に向いている分野。やったー! でも、フリーランスニートってなんだ? ニートの個人事務所ってなんだ? あ、自宅警備員ってやつ? よーし、就職だーって、俺はその実家がなくなったんだった! いつまでも、あると思うな親の金。それで、なんだかわからんけど、労働のまねごとみたいなものをして、糊口をしのいでいるのだった。いやーん、自由になりてー。