ライ麦畑で散弾銃をぶっ放す


 就活を苦に自殺したいとか、レールをはずれたらどうたらという話がある。それで、就活を苦に自殺したい、というやつに対して、「視野を広く持て」、「レールを外れてもそれなりに生きていける」、「世の中わりといい加減だ」みたいなアドバイスが発せられたりする。
 まあ、俺も就活に入る前に大学を中退して社会的にひきこもり、立派にニートの数年を経た人間だ。レールから外れた類の人間だ。それで、とりあえず三十数歳にはなっている。一応、仕事はある。今晩食う飯はある。寝るところもある。来月もあるだろう。半年くらいは大丈夫か? しかし、その先はわからない。半年先は闇だ。いや、半年持つのか? 今月末でさよならか?
 ……まあ、ずっとこんなだ。自転車操業だ。自死か、路上か、刑務所か。もう、その恐怖で頭がおかしくなってる。もう精神の医者にはかかっていて、薬無しでは動かない。予後不良率の高い病だ。
(「仕事は休めませんか?」と言って「無理です」と返され「ですよねー」と投薬するしかない精神科医はわりと督戦隊気分かもしれないし、あるいはひどく病んでいるように見えることがある)

 ようするに、俺は「視野を広く持て」、「レールを外れてもそれなりに生きていける」、「世の中わりといい加減だ」とか言いたくないわけではないが、それを言うと嘘もいいところだ、というところがある。欺瞞だよなって気がする。なぜならば、俺はわりと病んでるし、死ぬかもしれないからだ。ナイスなケースは他をあたってくれ。
 だからむしろ、少なくとも俺は、レールから外れてライ麦畑に疾走してくる連中がいたら、空にむかって散弾銃をぶっ放して、「こっちに来るな! こっちは地獄だ! 早くレールの方に戻って、公務員になるか、国策企業に就職するんだ!」って言うべきじゃねえかと思う。それが正直な意見というか、主張というか、警告というか、若いやつに贈る言葉だという思いが強い。義務のような気さえする。そうだ、公務員になれば、俺が【人生をかけている】タグを付与するような性犯罪でも犯さないかぎり安泰だ。昔ほど裕福ではないかもしれないが安泰だ。さあ、とっとと大原の公務員講座を受けるんだ! 大原がなんなのかよく知らないが。
 それで、レールに戻ろうとして強引に疾走する機関車に乗ろうとしてしくじって轢かれて死んだら……、パイの奪い合いするやつが減って助かる。
 あるいは、意地でもレールから外れて、ちょっとでも就活なんかに望めるほどの精神力と能力のある若いやつが走ってきたら……、警告なしに水平射撃してぶっ殺すしかない。俺は履歴書を書いたことがない。
 うん、飛び降りるべき崖は俺のものだし、簡単にゆずりわたしたりはしない。さあ、走ってこい、俺の散弾銃はハリボテのおもちゃかもしれねえぞ!

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 ……じゃあ、もっと小さなガキには? 言うべき言葉がいまのおれには見つからん。