睡眠時無呼吸症候群の疑い強しと診断されるのこと

SAS候補は上大岡を目指す


 土曜日、睡眠時無呼吸症候群SAS)を取り扱うクリニックに行った。上大岡にある。上大岡は、「かみおおおおか」と入力している間に「お」の数が正しいのかどうか不安になってくる。
 ちなみに、この横浜市中区付近、いくつかの睡眠障害外来がある。俺がここを選んだのは、ひとつに父が通院、入院しており、信頼できそうだということ。それにより、話が早いのではないかということ。もうひとつは、大病院ではないということ。大きな病院というのは、なにか敷居が高い。いや、実際に紹介状がないととかいうこともあるのだろうが、どうも抵抗があるのだ。


クリニック

 初診、予約は不要。どのくらい混んでいるかよくわからない。あまり待つのは耐えられないので、朝一を狙う。着いてみたら受付開始より少し前だったが、すでに開いており、十人くらい先客がいた。みながみな睡眠時無呼吸症候群というわけではない。内科・呼吸器科だ。
 「はい、おはようございます」
 「はい、あの、初診なんですが」
 「はい、本日はどのような?」
 「あの、睡眠時無呼吸のアレで」
 「では、おすわりになってこちらに記入おねがいします」
 問診票。一般の内科用に加え、睡眠時無呼吸症候群のアレ用のアンケートもある。ネットでも見かけるものだ。ここは奇をてらわず(当たり前だ)、素直に書いていく。一応、父がここで診断されたことも書く。
 問診票を受付に出す。順番待ち。ここは睡眠時無呼吸症候群かもしれない人間として、眠りにつくのが筋かとも思ったが、本を読む。結局読んでいるうちにうとうとしてしまったのだけれども。
 と、案外早く名前を呼ばれる。患者のみなさんも、みながみな診察ということでもなく、薬をとりにきただけだとか、そういうケースもあったのだろう。

診察


 結論からいうと、話しが早かった。「睡眠時無呼吸症候群の可能性が高そうです」と。
 まあ、そうだろう。素人の自分が決めつけていいものではないが、状況証拠が揃いすぎている。日中の強力な眠気、夜間の頻尿と喉の渇き、熟睡感のなさ、顎の細さ、イライラ、そして父が当該の病気であるというバックボーン。
 そうだ、父がこちらで診察を受けたというと、先生がパソコンを操作してなにか探している。父のファイルだろうか。見つからない。「あれ、ここだよな?」と俺が自分自身の記憶に不安を持ち始めたところ、見つかったようだ。
 どうも、苗字の読みが違っていたようである。いつだったか「我が家は今後、濁音なしでいく」とか言ってて、それ以来俺はずっとふりがなを清音にしていたのに、あちらはいつの間にもとに戻したのか。父とはもう何年も会っていない。
 まあともかく、親子で同じ病というケースもあるようだ。「うちの親父はいびきがうるさい」というような人は、自分自身に自覚がなくても(俺もそうなんだけど)、ちょっと疑ってみるとよいかもしれない。また、正直俺はそれほど太っていないが、それでもなりうるのだ。
 と、まあそんなわけで、入院検査を受けることになった。予約は二週間待ち。その前に、自宅での簡易検査もするとのこと。

 「それじゃあ、レントゲンと採血、心電図をとりますので、あちらの部屋へ」
 「え? 採血?」
 このとき、俺の体にいろいろの検査キットが装着されいたら、いっせいになにか反応しただろうと思う。心はもう小学生、「今日は注射するなんて聞いてない!」

検査

 が、いい大人が「注射は嫌ですので」というわけにもいかず(もちろん、いい大人でもショック症状を起こしてしまうような人もいて、それならべつにいいんだけど、俺の場合は異常にビビってるだけ)、おとなしく獄に……いや、検査を受けた。
 レントゲン、これなんて何年ぶりだろう。学校での健診の思い出といえば、なにか上半身裸でぺたっと冷たい機械に触れたような気がするが、ここでは上半身シャツ一枚。大きく吸って吐いて。
 採血。看護師さんが「針を見なくても大丈夫ですよ」と言ってくれる前に、完全に目をそらしている俺。だいたい注射苦手な人間はすぐに見抜かれているものらしい。もちろん、見抜いてくれている方が安心だが。この日は一本。
 最後に心電図。ヌルヌルの何かを塗られて、非常にくすぐったがりな俺は奇声をあげそうになる。そういえば、小さなころはくすぐったくて笑ってしまうために、小学校にあがるくらいまで床屋さんに行けなかった。まあ、いまだに髪を切るときは一所懸命笑いをこらえていて、成長していない。
 ああ、あと、乳首の傷が癒えていてよかったな、本当に。

 で、簡易キットと入院の説明をうけ、この日はおしまい。お代は3,540円。キットは小さなジェラルミン・ケースに入れられていた。

在宅簡易検査


 さて、病院のあとは買い物したり人の家に行って飯を食うなどして、帰ったのは日付の変わるころ。酒も入ってる。でもまあ、普段の生活、普段の眠りでいいんだろう。11日着でクリニックに送らなければいけないし(梱包用紙袋と郵パックの送り状がケースの中に入っている)、さっそく装着だ。


 こんなの。

 USB差込口があったから、自分のパソコンに繋いだらなんか見られるのかとか不埒なことを考えたが、シールで封印されていた。

 コードの先端にこんな端子がついていて、指先から電脳に接続する。え、電脳ないんだけど?

 装着するとこんな感じ。なかなかサイボーグ的ではある。このまま裸になって変身ポーズでも決めたところを自画撮りしてブログにアップしたりするのが昨今のおっさんのするべきことなのだろうが、そんなことは恥ずかしくてできない。そんなに自分を晒してどうするんだ、まったく。

悪夢

 そして俺は、端末をスタートさせ、少し緊張しながらベッドに横たわった。端末はとくに気にならず、すぐに眠りに落ちた。そして明け方、というか、朝になっていただろうか、俺はトイレに行き、またベッドに戻った。そのあとまたトイレに行ったり、戻ったり、起きて端末を外したり、まだ端末がついていたり、トイレに行ったり、トイレに行ったら部屋の方から聴き慣れない音楽が流れてきていたり、やっぱりベッドの上にいたりした。
 俺は悪夢を見たのだった。俺が俺の眠りを測定することに対して、眠りがなにかをフィードバックしてきたようだった。俺は俺と俺の眠りのハウリングにさいなまれたのだった。しかし、俺の悪夢のすべては機械にモニタリングされていたのだ。そのすべてに処方箋が出されるのだ。ざまあみろ、俺の眠りめ。
 俺は端末をジェラルミンのケースに入れた。
 晴れていたので洗濯をはじめた。洗濯をして、そして風呂の掃除をする。昼飯を食べて、馬券を買う。ただそれだけのことなのだ。

 そして、まだ俺の睡眠時無呼吸症候群は確定したわけではないのだ。

★★★

危険ないびきが生活習慣病を招く! (小学館文庫)

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 クリニックの先生の本。診察のさいに一冊いただく。タイトルは「いびき」を強調してるけど、睡眠時無呼吸症候群の原因、症状、治療についてわかりやすく、丁寧に書かれている。