流れよわが涙、と警察官は言ったか言わなかったか

 昨日か一昨日の夜のことなんだけれども、石川町駅の南口の前に近づくと、すごいクラクションの音がしたのよ。なにかと思ったら、ヤクザの車(なぜそう思うかはこのあたりで暮らしている経験によるものなのだけれども)が、駐まってる白いワゴンに「通れねえぞ」ってガンガンやってんの。
 で、ついにヤクザの車からヤクザっぽい男(以下ヤクザ)登場。白いワゴンに近づいてく。で、わたしもヤクザの車の後ろから歩いてきたわけで、それで近づいてみてようやく気づいたのだけれども、その白いワゴンって頭に赤色灯つけた警察車両だったの。光らせていなかったから遠くからではわからなかったけれど。それでわたし、これからの展開、目が離せないって思ったわけなのだけれど。はたして、ヤクザっぽい男はどうするのかしら? と。
 そうしたら、ヤクザは一歩も退かないのね。ワゴンの運転席のドアを外側からバシーンって叩いて、「オラー、邪魔だコラー」みたいなこと叫んだりするというわけ。
 それで、もうわたしはヤクザの車の脇を抜け、ワゴンの横も通り過ぎてしまったけれど(正直、慎重に運転すれば通れるんじゃないのというレベルの隙間を感じたけれど)、ちょっと様子を窺ったりしたというわけ。すると、細身長身の警察官が小走りで現れて、「すみません」と言ったかどうかわからないけれども、すぐにワゴンに乗り込んで、エンジンをかけた。わたしが見たのはそこまで。
 そのあとの帰り道、いろいろ考えたんだけれども、ヤクザはあれを警察車両とわかってクラクション連打とドア叩きやったのかどうかとか。わかっていなかったとしたら、接近して気づいた時点で退くこともできたのだろうけれども、そこで退くわけにはいかないという選択肢を選んだことになるわけね。けど、もうひとつ考えられるのは、警察車両とわかっていて、あえてガンガンやったということ。なにせ、道をふさいでいるのはワゴンの方。赤色灯もつけてないし、緊急という意思表示もなくあんなところに停車してもいいのかしら、と。それで、向こうに引け目アリとガーンといってみたのかもしれない。それとも、そんなのお構いなしに、お巡り上等だったのかしら。でも、それじゃあちょっとヤクザもたいへんじゃないかしらん。でも、暴力や威嚇のさじ加減を知ってるからプロなのかもしれないし。
 一方で、お巡りさんの方はどうだったのかしら。ドアを叩かれたりしたのを見たのかどうかわからないけれども、あの態度でよかったのかと思えてしまうのだけれども。やっぱりちょっとそこに駐めて、交通を妨げたことに引け目があったのかしらん。けど、べつに立ち食いそば食ってたわけでもないだろうしね。「県警なめてんじゃねえぞ、ヤー公!」とか言って、二、三発鉛玉をくらわせてもよかったんじゃないかしら。そうしたら、ヤクザの車からサブマシンガンの連射で応酬する感じ。え、なにそれ、メキシコじゃあるまいし。
 まあ、まったくそんなことにはならないから、わたしも馬鹿面さげてうすらぼんやりずったらずったら歩いていられるのだし、暴力にこっぴどく打ちのめされたこともないからこんな風に思うのだからまったく無責任なんだけれども、もっとのっぴきならない状況を見てみたいなんて思ったりするのは、どこから顔を出すのかよくわからないなどとうそぶいてみるにしても、まったく理にかなわないことなのだけれども。