いきなり『バッド・ルーテナント』とは関係ない話からはじめる。いや、関係あるか。三十何年か生きてきて、はじめて映画雑誌を買ったのだ。『映画秘宝』。すごいたくさんの人の2010年映画の評価が載っていて、参考になりそう、と思ったからだ。『映画秘宝』のことは、Wikipedia的知識しか知らない。ただ、俺が10代のころあまり興味のなかった映画というものを、若干は見るようになったのは、インターネットでいろいろの評判、テレビのCMやランキングでは現れないところの批評や評価を読むようになったからで(たぶん)、そのあたりのテイストと、パラパラめくった中に見られるタイトルが、おそらくはかなり重なっていると感じたのだ。
それで、『バッド・ルーテナント』。ニコラス・ケイジに、後ろでなんか爆発しているパッケージ。レンタルビデオ屋の店頭で見ても、99%スルーしたと思う。が、上の雑誌でわりかし高く評価されていたりして、とりあえず借りてみた。
ハリケーン・カトリーナが襲来した直後のニューオリンズ。逃げ遅れた囚人を救い出したことで表彰され、昇進を成し遂げた正義の刑事テレンス・マクドノー(ニコラス・ケイジ)。
しかし彼は賭博に興じ、恋人の高級娼婦フランキー(エヴァ・メンデス)と共にドラッグに手を染め、挙げ句の果てには警察が押収したドラッグを盗み出すという裏の顔を持っていた。ある日、不法移民の一家5人が惨殺されるという事件が起こる。テレンスはこの事件の陣頭指揮を執ることになるが、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
というわけで、腰痛の痛み止めからヤク中になった「悪い警部補」の話。警察組織と犯罪者、どっちにもズッポリはまって、トラブルがどんどんどんどん折り重なってくるあたりは、エルロイのようでもあり。あるいは、ブコウスキーの『パルプ』が近いか。さらには、ドラックにズブズブの感じは、不思議とP・K・ディックのようでもあって。
なんというか、その、ラリってる描写がスッと入ってくるあたりがいい。ドキッとする。そして、同時に、映画自体に大きな疑いを持つように仕掛けられているようにも感じる。検事の名前にも意味があるんじゃないか? というか、それは? というように。あんまり書くとネタバレになって嫌なので書かないが、一筋縄じゃいかないぜってところもある。悪くない。
でも、だいたいは、ズボンに44マグナムぶっさして(あれって暴発したら金玉とか吹っ飛びそうで怖いんだけど、アメリカ人は大丈夫なのか?)、いろいろのドラッグでアレっぽい感じになったニコラス・ケイジが、どうにも人間的にどうかというような、しょうがないことばっかりやってる(「逃げ遅れた囚人を救い出した」シーンもね)わけで、なんともしょうもなくていい。それで、「これをどうやって風呂敷に包むんだ」と目が離せなくなって、そう包んで終わらすか! みたいな驚きもある。いい。
……というわけで、『映画秘宝』2010ベストを手がかりにしばらくは映画など観ていこうかと思う。おしまい。
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