神話なのかなんなのか『PRODIGIGAL SONS』

※わりかし内容を書いてしまっているけれども、その上で観る価値があると思います。

 昔々、モンタナ州に医師とその妻の夫婦がおりました。長年子供を授かろうと不妊治療などしても結果が出ないので、養子をもらうことにしました。長男のマークです。しかし、運命というものはよくわからないもので、一年後に実子の次男を授かり、さらに三人目の弟もできました。
 長男のマークは暴れん坊で、幼稚園を留年になるほどでした。見た目もはっきりいって不細工で、あまり出来のいい子どもではなかった。家族の8mmカメラの前ではやけに演技がうまかったり、誰にならったわけでもないのにピアノが弾けるといった特技はありましたが。一方で、次男はといえば、容姿端麗、成績優秀、さらにはハイ・スクールのアメフトチームでQBとして活躍します。スクール・カーストのようなものがあれば、最上位といっていいでしょう。女の子にもモテモテで、ダンス・パーティーの花形です。
 その後、長男マークは趣味の自動車で事故をして、脳みその一部を摘出することになりました。次男は都会に出て、性転換手術を受けました。実は性同一性障害にずっと苦しんでいたのです。そして、三男は同性愛者でした。
 この次男が映画の監督です。ずっと離れていた故郷の同窓会に帰ることを決断し、その様子を収めることにします。故郷に帰ると、脳みその一部を失った長男マークは記憶障害に苦しみ、当然暴力的になっていたりと大変です。しかし、そのマークが自分のほんとうの出自を探したところ、彼の産みの親はオーソン・ウェルズリタ・ヘイワースの娘でした。オーソン・ウェルズの内縁の妻的な人から招かれて、クロアチアに行ったりします。おしまい。
 ……いや、おしまいじゃねえんだけれども、こういう話。われながらまったくうまくまとめられていないのだけれども、なんかもうまるでジョン・アーヴィングの世界でしょう。『ホテル・ニューハンプシャー』かなにか。あるいは、タイトルは聖書の放蕩息子のエピソードから取ったらしいのだけれども、神話的なのか、民話的なのか、いったいなんなのか、という。番組のCMで『放浪息子』のDVDを宣伝していたのは偶然だったのだろうか、という。
 一方で、そうとうに現代的なテーマを描いているともいえる。監督はMtFレズビアンといえば正しいのかどうか、パートナーは女性だったりする。それが、田舎町でどう受け取られるか、といったジェンダーの問題もある。……が、少なくともフィルムの中では同級生も好意的というか、ネガティブな光景はなく、そのあたりはドキュメンタリの狙いはずれだろうか、というのは下衆の勘ぐりだろうかどうか。まあ、後半にものすごいヘイトをぶつけられるシーンがあるのだけれども。
 が、その分といっていいのかどうか、兄マーク。この存在感。なんというのか、たがが外れたところがある。このあたり、親戚で脳梗塞になった人がいて、その術後の姿を思い浮かべずにはいられなかったが。まあ、頭の事故のことは置いといても、三兄弟で自分だけ養子でしかも劣等性。弟は超優秀。そのあたり内心など想像せずにはいられない。
 そして、きわめつけのオーソン・ウェルズの孫発覚。これはニュースになったことらしい。それで、写真とか並べたら顔そっくりだし。いや、遺伝子がどれだけ人間の才能を決めるのかとかいう話はあるが、天才の血筋に見えてくるんだ、これが。なんかこう、ピアノとか弾いてる姿とかね。でも、マークは脳みその一部を取られた記憶障害持ちで、その影響で人格も壊れている。粗暴な田舎町の迷惑者だ。このあたりが、なんとも言えなくなる。彼がもしもオーソン・ウェルズリタ・ヘイワースの孫という環境で育てられていたのならば、なんらかの芸術的な才能を開花させていたのかもしれないと。閉じ込められた魂があると、そんな風にさ。
 持ち上げすぎ、考えすぎなのかもしれない。けど、目が離せないんだ、マーク。ほとんどマークに持って行かれたという、そういう感じ。まあ、マークはお巡りさんに連れていかれてしまうのだけれども、そのあたりも必見。
 というわけで、陳腐な表現を使えば「事実は小説より奇なり」のドキュメンタリー。たぶん、筋をわかった上で、それでも見る価値がある、って何様かよって言い方になるが、おすすめです。

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