基地の町へ走る(あるいは墓地の中へ)

 このままでは自分が自転車を持っているのを忘れてしまうのではないかと思い、自転車にまたがって西の方へ向かった。とくに理由はないが、西に。

 泉区の方か、とくに目的もなく、河原の広場で行われている鯉のぼり祭りを見たりするなど。泉区のあたりは道も広いし、川も流れていて感じがいい。また、川沿いがサイクリングコースのようになっているのか、急にロードが増えたりして驚いた。

 しかし、田舎の方はともかく、街中ではこうやって広場で大量に泳がすのが鯉のぼりのスタンダードになっていくのではないだろうか。ちなみに、この祭りはポスターでも現地でも主催者の名前が大きく出ており、みんなの党の人らしい。鯉のぼりを吊るすクレーンに入っていた業者の名前と一緒だったので、まあなにかそういうことだろう。人は多かった。

 泉区のキャベツ畑。小高い山の上は畑や圃場。

 抜けて着いたのは引地台公園。目的なしとはいえ、一応このあたりまでという目星はつけていたのだが。そして、いやらしい話だが、ビンラディン後の米軍基地周辺はピリピリしているのか、野次馬で来たのだと告白しよう。
 で、ピリピリしていたかどうかというと、普段を知らないのでなんとも言えない。が、ひっきりなしにヘリコプターのエンジン音が聞こえていたのは確かだ。その「ひっきりなしに」というのは、字義どおりにひっきりがない状態であって、ほとんど途切れずに聞こえてくるのだ。……ひっきりってなに? しかし、まったく機影が見えないのも妙なことであって、いくら引地台公園の樹木の背が高くても、ちらっとくらい見えないものかと不思議に思う。光学迷彩でも実装しているのか米軍機は。
 とか考えながらセブンイレブンで買った弁当と唐揚げ棒を食ってると、隣のベンチで小さな男の子とその両親が話すのが聞こえてきた。

 「アメリカが、オサマ・ビンラディン、おひげのおじさんをやっつけたから、米軍、アメリカの軍がやりかえされないように、ヘリコプターで警備してるんだよ?」
 「オバマ?」
 「オバマじゃなくてオサマ。おひげの」
 「どうしてどっちも‘オ’なの?」
 「え、それは関係ないんじゃないかな」
 「中東ってどこ?」
 「中東って言葉を知ってるのか」
 「米軍見たい!」
 「え、プールは? そうか、米軍見るか。フェンス越しに見えるかな」

 ……さあ、見えるかな。俺もよくわからないが、せっかくなので基地の周縁ぎりぎりを回ってみようかと自転車に乗る。基地に隣接している日本飛行機という会社の敷地の側を通り(側と言ってもお濠のような小川と高いフェンスで防護されている)、少し高い二車線道路に出ると。

 あら、こんなところに滑走路が。そしてヘリコプターがぐるぐると。

 なるほど、ヘリは小高い滑走路の上をぐるぐるまわっていたのか。地理関係や高低差がわかっていなかった。

 して、横を見るとポツポツと見学者が。いや、見学……というか撮影者、有り体に言ってしまえば軍事マニア、か。あるいは基地を監視している団体の人などもいるかも知れないし、俺のように中途半端に迷い込んだ中途半端な野次馬もいるだろうが。
 ……いるだろうが、やはりどっしり構えているのは本格派。サンニッパ、下手すりゃヨンニッパの望遠レンズを装備し、なにかでかい無線機で米軍の通信を傍受している。そういうスポットだったか。俺などは巡回のヘリが飛んできただけで「おお」とか思ってしまうが、彼らは一瞥もくれない、ただ滑走路の方を見る眼光まるでスナイパー。ジェット機の離陸か着陸を待っているのだろう。
 あ、写ってる自転車は俺のではないですので。

 10分、15分、20分、たまたまの自転車乗りの人などが立ち去る中(けっこうサイクリストが多く通り、自転車は止めやすいから止まっていく人少なくない)、俺はポケーっと待つ方の人。と、いきなり轟音とともに登場。離陸前からけっこうな音がする。

 うわー、遠いな。200mmでは。つーか、モヤモヤしててピンが合わない。あれはなんの飛行機だろう?

 いや、違うし。つーか、『幻の湖』とか思い出すの、なんか引き出し間違ってるし。

 とか言ってたら(頭の中で)、あっという間に飛び去ってしまう。どんぐらいの加速か、あるいは短距離離陸性能なのか、ケツから見ていてもピンと来ない。まあ、はっきり言って空港で横から見ててもピンと来ないが。

 なんかうろつくやつ。

 そして最後に一機。
 ……いやはや。

 また自転車を漕いで基地の周りを行く。と、住宅街の片隅の空き地や、工場の外、霊園の駐車場みたいなところなど、バズーカのようなレンズを持った個人または集団にいきなり出くわして面食らったりする。撮影スポットを変えつつ、一日過ごしたりするんだろうか。
 しかしなんだろう、飛行機を撮るマニア、電車を撮るマニア、競走馬を撮るマニア、野鳥を撮るマニアとかの凄腕を集めて、機材自慢や腕前を競わせる祭りなどを開催してみればどうだろうか。俺は見に行きたいとも思わないが。

 それはそうと、意外なほど住宅が基地ぎりぎりまであるという印象。近いのだ。親戚の家が町田にあって、あそこでもそうとうに軍用機の騒音がしたが、ここなどたいへんだろう。あるいは危険性とかな(Wikipediaとかに載ってるが)。ただ、普天間ほど反対運動などが目に見えないあたり、たとえば基地が先にあったとか、そういうところもあるのだろうか。
 ちなみに、こちら側から見える基地の敷地にあるのはゴルフ場。ネットがアホほど高い。座間ではゴルフボール飛び出しが問題になっていたっけ。

 そんなところで。Dst62.14km。あえて坂路コースを選択するなどしてみたせいもあるが、最後は脚が上がった。行きっぷりは悪くなかったが、最後バタバタ。休み明けの馬の気持ちがわかった。

あるいは墓地へ

 軍事関係ついでということで、自転車の翌日、つまりは一エントリ前の同日に撮った写真を。






 英連邦戦死者墓地。ここに眠る人間がどこでどうやって死んだのかは、自分の目で確かめられたい。……とか言いつつ、グルカ兵の墓石を見つけて少しだけテンション上がるような気質の人間である俺が言ったところでなんの含蓄もないが。
 ……しかし、この墓地を見て思うのはどうかと思うところもあるが、個人個人の墓の方が、日本の「家の墓」に比べてなにかしらいいような気がする。うまく説明できないが。

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 引地川公園ゆとりの森、今回ケツの方から撮った反対側にあった。そこではじめて、ああここ、同じ基地、同じ滑走路を見ていたんだ! って気づいた。しょうもない。その上、エントリの内容もだいたい一緒なので、俺の引き出しもそうとうに少ないといえる。