不動産屋がようやく折れてきたが俺も折れそうな件について

承前:不動産屋がなりふり構わず敷金を返そうとしない件について - 関内関外日記(跡地)
※前にも書いたとおり自分は弁護士でも不動産業界の人間でもないので、書いてることが参考になるとは思えないし、参考にしてお前が不利益をこうむっても知った話ではないです。だいたい、これが実話かどうかすらわからないし、俺が犬である可能性も考慮するべきだ。

 前回アップした下書きをいくらか手直しし、翌日プリントアウトしたものを会社の人間に見てもらった。結果、「筋は通っているように見えるし、おもしろそうだから送ってみれば」という意見であった。やはり他人の揉め事はおもしろいものらしい。
 ただ、条件面についてもいくらか意見をもらい、いくらか変更点を加えることにした。昼休みにガイドラインからの引用の挿入やIllustratorでのそれらしい装飾を施した上で、ガイドライン該当箇所を別添資料として付け足し、速攻でFAX。内容証明にしたほうが効果的かもしれないが、スピードで圧倒したい気持ちに駆られたからだ。郵便到着から一晩でここまでやるのは、わりかし仕事早い感じだし、出しとかなきゃもったいないような気もしたのである。返事がまったくなければ、内容証明でもなんでも出してみようと。
 15分経って電話する。いつものおばちゃんが出る。ファクシミリが届いたことを確認する。予想通り担当者カトウ(仮名)不在……ルームチェックの内装業のおっさんの本音トークやおばちゃんの話の感じからも、居留守やなにかではない。おそらくはたった一人でこの会社の賃貸関係で駆けずり回っているのだろう。週明けに連絡をくださいことで話は終わる。おばちゃんの口調や態度はいつもどおりで、困惑、へりくだりの調子を豹変させたりはしない。
 週明け、月曜に電話での連絡がなかった。また郵送で送ってくるのならばと、木曜まで待つことにした。というか、こっちはもう年度末進行が始まっていて、それどころではないような感じであって。
 でもって、木曜にもなんの連絡がないので、電話。またおばちゃん。
 「○○ですが、こないだお送りしたものについて返事がないということは、内容について了解されたと理解してよろしいでしょうか?」
 「いいえ、申し訳ありません、わたしには契約のことはわかりませんのが、担当にはたしかに伝えておりますので……」
 「ちょっとよろしいですか? わたしは株式会社□□□さんと契約しているわけで、担当のカトウ(仮名)さんと個人的に契約したわけじゃないですよね。いつも担当者不在とおっしゃるが、それはそちらの内部の話であって、こちらは知った話ではありません。こうも返事すらいただけないようでしたら、法的な手続きをとるしかないわけなんですが」
 「すみません、たしかに伝えておりますので、わたしはアルバイトなもので……」
 「(わりと長い沈黙……) それじゃあ、ともかくすみやかに連絡ください。電話でもファクシミリでもかまいませんので」
 とかいう内容。
 で、いったん切ったあと、すぐにリダイヤルして。
 「すみません、一応、お名前よろしいですか?」
 「◇◇と申します」
 「えーと、本日は1月19日の金曜日、間違いありませんね?」
 「はい、そうです」
 といったやりとりを録音……してねえけど、なんとなく。つーか、おばちゃん、名字が契約書の社長の名前と一緒っつーか、立会いの内装屋のおっさんも言ってたから誰だかわかってんだけど、アルバイトはねえだろうや。いや、身分上はそうなのかもしれねえけどさ。
 で、翌日金曜の午後、iPhoneに不在着信があったことに気づく。時刻は午前10頃。不動産屋からだった。打ち合わせしてて気づかなかった。カトウ(仮名)いるかと思って、電話。が、おばちゃんが出てきて、「カトウが午前中連絡さし上げたが繋がらなかった。今はもう出てしまっているが、返事は郵送いたしました」とのこと。さて、わざわざ郵送してくるとはどういう内容やら……。

 と、こういう内容でした。「退室立会による借主負担額」部分(この名称も意味わかんない)の文章は以下のとおり。

民間賃貸住宅における賃貸借契約は、いわゆる契約自由の原則により、貸主、借主、双方の合意に基づいて行われたもの、すなわち現在の契約が有効なものと考えますが問題点を解決する為に契約時点でのガイドライン(平成16年版)を参考とします。従って経過年数の考慮につきまして10%

 なんか読点足りなくて息が苦しいんだけど、10,600円だって。前の58,500円からどう計算したの? と、思ったら、別紙ルームチェック表のカーペット40,000円/壁クロス45,000円/天井クロス21,000円の横に赤ボールペンで4,000、4,500、2,100とある。ようやく内訳計算らしいものをしてくれたか、カトウ! けど、これで前の58,500円どう説明すんの?

________________________________

株式会社□□□社 □□□様
 平成24年1月21日に送付いただいた□□□アパート□□□室についての敷金清算明細について確認しましたところ、またもや了解しうる内容ではありませんので、ここにその理由を記し、再度適正な敷金の返還を要求いたします。
 まず第一に明確にしておきたい点は、カーペット、壁クロス、天井クロスの汚れにつきましては、なんら日常通常使用での損耗以上の過失が存在しないという点であります。ガイドラインにおける残存価値計算を引き合いに出したのは、あくまで御社の提示した借主負担額の不明瞭さを指摘するがためであり、残存価値計算の必要性自体が存在しないものと考えます。
 その上でさらに今回の見積もりの算出方法について問題と考えられる部分を指摘します。「契約時点でのガイドライン(平成16年版)を参考」とありますが、ガイドラインは法令ではありませんので、法の不遡及原則のごとく、契約時点でのガイドラインを参照する意義は不明であります。なお、前述のとおり、残存価値計算の必要性自体を認めていないことを改めて記します。
 また、「故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」を具体的に指摘されない点も不可解です。これについて、当方では引渡し時点での室内全方向の写真及び、ルームチェック時の会話録音の記録を有しておりますが、いずれによってもとくに問題のある毀損は確認されておりません。
 以上の理由により、「退室立会による借主負担額」と称する項目についての請求10,600円について支払う意思はありません。早急に前回請求通り63,337円の敷金返還を求める次第であります。
________________________________
 
 ……って、送るかね? 送らない、かな。というか、俺はもう向こうの条件で手を打つ方にかなり傾いている。最大137,500円の負担額(文書としては受け取っていないが、立会人の言動から明らか)、敷金と家賃返還を引いて42,663円をさらに支払うというところから、52,737円戻ってくるところまで来た。思えば遠くへきたもんだ……。
 なんというか、もういいかという気になっている。正直、再度の見積もりで「敷金返還事務手続き遅延代:90,000円」とかの謎請求すら想像していからだ。年度末進行が始まってしまって「内容証明を一度くらい送ってみるか」というような余裕すらなくなってしまった。取り返したところで10,600円。もうめんどうだ。だらしないやつ、負け犬、なんと言ってもらってもかまわない。もうめんどうだ。
 なにかこう、もっと泥沼、こんな少額なのに裁判かよ! みたいなの期待していた人がいたら悪いけど、もう終わりだ。さあ、散った散った。俺は森に帰る。村の畑、荒らさない。娘、さらわない。

感想戦

 というわけで、さっきまで録りためていたNHK杯将棋トーナメントを見ていた(高橋道雄が自分の予告通り若手の切られ役になったところまで見た。しかし、九段といっても現役A級なのに……)影響もあって、感想戦を。ああ、もうチャンネル変えていいです。とっくに変えてるか。
 で、気づいている人間はいないと思うが、前回下書きでの請求は79,087円。つまりはルームクリーニング代を半額に値切るのを最初の文書送信の時点で放棄していたのだ。特約をひっくり返せるかどうか。この点については下書き段階でも迷っていたというか、ルームチェック当日の電話でも確信が持てなかった。

「また、特約にルームクリーニング代とあるが、これもガイドラインによると貸し主負担だが、払う必要があるのか」と俺。「これに関してはお支払いいただくことになる」と向こう。「こういったガイドラインで貸し主負担が通常とされているという説明は受けなかったが、それでもか?」と俺。

Twitter. It's what's happening.

 国交省ガイドラインにも「賃貸借契約については、強行法規に反しないものであれば、特約を設けることは契約自由の原則から認められる(P6)」とあって、ルームクリーニング特約自体が不当ということはない。ただ、「次の要件を満たしていなければ効力を争われることに十分留意すべき」とある。

1 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
2 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
3 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

 「特約の必要性」というのはよくわからないが「暴利的でない」というのは、まあそうだろう。また、後段にある「単価等を明示しておく」という点についてもクリアされている。そして、印鑑を押した時点で「義務負担の意思表示」になりそうだし、「賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること」にもなってるんじゃないか、ということだ。ただ、俺が内心で「原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識」していたかというとノーだ。ノーなのだが、それをどう証せというのだろうか。たしかにわざわざルームクリーニングの支払いがあるという説明を口頭受けた覚えはある。ただ、そのとき、「原状回復義務を超えた修繕」が貸主負担であるとかいった、賃貸物件に関する基礎の知識が欠けていた。残存価値云々についても知らなかった。ほんの少し前まで「わりとながく住んでしまった以上、いろいろのくたびれなどもあって敷金は返ってこないものとぼんやり考えていた」のだ。というか、その引っ越し契約時といえば、実家がなくなったり一家解散したりで、ほとんどなにも考える余裕なかったんだけども。
 まあ、そんな個人的な事情はともかくとして、この点について「なにやら説明を聞いた覚えはある」のと、「なんだかんだいって印鑑押してしまった」という二点について、「負けかな」と思ってしまったのは事実である。また、同僚の人から「金額内訳ではなく、契約事項自体の是非に及ぶとこじれるんじゃないの」という意見もあって、正直言って先に折ることにしたのだ。だいたい、半額の根拠というのもわからんし、「ルームクリーニング代は飲む」(しぶしぶ飲む旨は書いたが)、というところで向こうの立つ瀬を作るというような意図はあった。それで謎の負担額を取り下げるのではないか、と。結果的に、立つ瀬の上から10,600円取り返しに来たわけだが。でも、かっこつけていえば自分への戒めという思いも無いではない。
 この特約について、もし裁判なら裁判になって「捺印はしたが、特約という認識はなかった。通常のことと思った。ガイドラインでは貸主負担になっているとの説明はうけなかった」の一本槍でどこまで戦えるのかというのは気になるので、だれかやりあってみて結果どっかに書いといてください。つーか、青点先生は飲ませてるな。あれ、やっぱり半額どころか0円ベースで話を始めるべきだったか。これは失着。殴り合いに慣れてない。最初は適当なフルスイングで行くべきだった。向こうだってそういう姿勢なわけだし。
 次に、カーペット、壁クロス、天井クロスの汚れにつきましては、なんら日常通常使用での損耗以上の過失が存在しないことをご確認(したわりには飲もうかと思ってるんだけど)の上の話で、本当に「こうなっていたら」の感想戦。「ガイドライン」の残存価値計算の目安について、契約時点のそれと現状のそれが違う場合、どちらが適用されるのだろうか。
 個人的には上に書いたとおり、現行のものが現在適用されるんじゃねえかと思うんだけど、さてどうなんだろう。実のところ、予習の段階で「6年で1円」と「6年で10%」と2通り検索で出てきて、よくわからなかったというのもある。電話で「ガイドライン通りに、6年の経年劣化、自然損耗を勘案した上で見積を出してほしい」と言ったが、「残存価値1円になるように」とは言い切れなかった(……もっとも、今から考えるとこれ自体「そもそも自然損耗以外の毀損がない」という自分の立場を自分でわきまえていない隙のある発言だったが)。
 で、調べてみると、16年版ガイドラインで10%というのは確かなわけで。その算出基準について、さらにもとになる法律があるとすれば、なんとなく向こうの言い分が正しいようにも思えるが、ようわからんし、調べる気もない(国交省「■「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)に関する意見募集で寄せられた意見」では冒頭に取り上げられているが、根拠はやはりガイドライン内だけだろうか)。
 ただ、これから契約をする人は現在配布されている最新の再改訂版ベースなので、「6年で1円」だろう。それ以前の契約物件から出る人は、わざと壁クロスを毀損してみて、どういう算出になるかどっかに書いておいてくれるといいと思う。いや、実際にわざと毀損させても、俺はなんも責任とらんが。
 あと、最後に本当に感想なんだけど、俺にとって適当な文章をでっち上げるのは簡単で楽しいくらいの話なんだけど、いざ少額訴訟、くらい考えると、やっぱり怖さと面倒くささの気持ちが沸き上がってくる。このあたり俺の弱さや未熟さ、生活基盤の脆さ(ソヴェート・ロシアでは、もとい零細企業の人間は休めない!)、弁護士その他金のかかるものに頼めない(頼むほどの額ではない)貧乏さによるものだが、生業以外で場数踏んでる人も少なかろう。そのあたりで、このくらいの提示で折れるか、というあたりを認識するあたりで、心が折れたといっていい。ただ、どうせ交渉するなら、まず目隠ししてフルスイングするべきだと、今回学んだ。
(とか、言いつつ、上の返送案書いてたら、もう一回電話で交渉くらいしてみてもいいかって気も若干してきていたり。どうせ同意するにしても連絡するわけだし)
 

おねがい

 もし、ここまで読んでいる人がいたら、お願いがあります。敷金のこと、賃貸物件の壁クロスやらなんやらについての扱いについての基礎知識を、なんか知らなそうな人がいたら教えてあげてください。俺もいざ退居という直前まで知らなかった。そう、普通に使っていて汚れたりしたものを、まっさらに新品にグレードアップしてやる義務は基本的にありません。また、なんかやってしまった場合でも、補償しなきゃいけないのは、残存価値を計算した上でのものです。この二点でもずいぶん違うと思います。そして、これは当たり前のこととされているのに、よくない不動産屋は知識のない人間から平気でむしりとろうとします。
 ともかく、
 ■国交省のガイドライン(PDF)と、   
 ■東京都の賃貸住宅トラブル防止ガイドライン
 を読んでください。東京都のものは東京都の条例ベースですが、基本的な考え方については当然国の考えをベースにしているし、イラストも多くわかりやすい。その他自治体にもいい資料があるかもしれないから、探してみてもいいでしょう。
 さらに言えば、やはりこれらは契約前に知っておくべきです。特約についてもそうです。国交省ガイドラインの第一章の頭の方にこうあります。

そこで、賃貸借契約の「出口」すなわち退去時の問題と捉えられがちである原状回復の問題を、「入口」すなわち入居時の問題として捉えることを念頭において、入退去時の物件の確認等のあり方、契約締結時の契約条件の開示をまず具体的に示すこととした。

 自分のケースでいえば、たとえば特約についてなど理解がなかった。これは過失といっていい。あと、やはり引越時にそんな余裕はないかもしれないけれど、元からある傷や汚れについては、契約を交わしたあとでもいいから、とりあえず大家か管理会社に問い合わせておいたほうがいい。後顧の憂いはできるだけ絶っておくべきだ。後になればなるほど面倒だ。
 でも、面倒は面倒だけど、パワーのある人は最後まで戦い抜いてみてください。俺には無理だった。で、やってみて、できたらどっかに記録を置いといてください。誰かの参考になるかもしれない。できなくて、悔しい思いをしても、どっかに記録を置いておくといいし、誰かの参考になるかもしれない。

最後に

 最後に、もしもこれを読んでいる不動産業界の人がいたら、というか、カトウ、お前が読んでいたら言いたいのだけれども、不毛なことはもうやめようぜ。世の中にはろくでもない入居者がいて、トラブルを起こし、ゴミを残し、金を払わなかったりするのだろう。そういうやつらから身を守る必要もあるだろう。ときには大家と入居者の板挟みになったりするのかもしれないし、会社から異常なノルマを課せられたりしているのかもしれない。このご時世、会社自体の存続も危ういのかもしれない。でも、せめて敷金はこれこれこういうもんだと、入居者にしっかり説明しようよ。契約時にガイドラインプリントアウトしたのを渡して読んでもらおうよ。その上で、家賃払わないやつがいたり、ゴミと大傷を残して退居するようなやつがいたら、正々堂々と敷金から差っ引けばいい。違うのか? なんか、前回の記事であんたらがいかに忌み嫌われ、不信感を抱かれているか、その憎悪が渦巻いてるの見て、正直ちょっとびっくりしたぜ。おまえ、衣食住っつう言葉があるくらい、人間にとって必要なもん取り扱ってんだろ。ちょっとは誇り持てよ。
 ……まあ、クソ不景気のクソ時代、そんなの過去にはありえたかもしれない感傷にすぎないか。人間にとって必要なものだからこそ、余計に奪い、余計に富む、肥え太る。無知なやつは騙されていることにすら気づかない。まったくこの世に生きる価値はあるのか? 俺もあんたも、とっくに残存価値1円になってるのに、気づかないふりしてるだけなんじゃないのか。やっぱりそうなのかな、カトウ、お前はどう思う? 俺はお前の管理してたアパート好きだったし、できればすっきり退居したかったんだけどさ。

 おしまい。