さて、帰るか


 「空、青空に」。
 ……って、たくさん指示があったので、おれはたくさんの青空を捏造した。捏造する過程で、「抽出処理めんどくせえ」、「キワがめんどくせえ」、「つーか、この段階でやる仕事じゃねえだろ」という理由で、何本もの樹木を薙ぎ払い、電柱を引き抜き、電線をぶった切り、ビルを爆破した。そうやって簡単な空スペースを作ったあと、できるかぎりの処理を天に向かって行った。嘘の青空、嘘の雲。嘘くせえ。嘘のアフリカ。でも、できるだけ嘘くさくならねえように。でも、もっと時間があれば……などと言うまい。
 しかし、だ。何百枚も等倍ピクセル? で見て、パープルフリンジどころかわけのわからない真っ赤な線やら、どんなに目のつけどころをシャープにしてもシャープにならない……要するに手ぶれした写真だの、完全にカメラの能力に対して暗すぎる状態だの、人の責任じゃねえけど天気が悪いだの、正直言ってあまり元のよくない写真を、お客さんにどうにか勘弁してください限界です、のところに引きあげるこの作業。rawなんてもんはねえよ、サイズギリギリの古いコンデジ撮って出し、下手すれば日付の入った紙焼き、カビの生えたポジ!
 なぜそれが生じるかといえば、それの専門家はそれを写真で撮る専門家とは限らない、というか、カメラ好きとは限らない、というか、まったく興味ないし、コンデジで記録するだけだし、みたいな、そういうことってあるわけで。それで、いろいろの事情で両立した人間なり、専門家の指示でプロカメラマンを雇ったりする時間がない、金がないとなると、誤魔化すしかない、ということになる。デジタルなんたらの専門学校すら出てないおれが見よう見まねのPhotoshopでやるんだよ。こいつはMかぶってるみてえだけど、Yを先に引いて、ほらマシになった、その分C盛って、最後Kを軽く締めるか……。
 ……ってことの何百回の繰り返しを、もうそれなりに何回もやってると、「写真って何?」ってなってくる。場合によっちゃ、文句の無さそうなきれいな写真も、それはその環境下でのバランスのいい色であって、「実物はもっと紫色っぽい」とかいうこともある。いや、しかし、そんなのはマシな話だ。おれはピントの合った写真が見たい、脳内ですぐCMYKの盛りつけを考えなくていい写真が見たい、つーか、おれに撮らせろ! ……というのもあって不相応なデジタル一眼レフとかぶら下げたりしてんのか、おれは。とか、まあ愚痴だけれども。あと、DTPワールドとかそういう雑誌は、お高いカラーマネージメントみてえな話ばっかりしてたから潰れたね。

 ……って、3年前も同じ事言ってるしな。ああ、おれ進歩してねえや。って、つーか、「ここに写っちゃってる電柱消せる?」とか「この車消せる?」とか、はっきり言ってすげえ好きなんだけども(党の命令でスターリンのあばた面を修正したり、エジョフやベリヤの痕跡を消す仕事とかしてて、最後は粛清されたりしたい)、まあしかし、青空はめんどくさい。樹が生えてるとめんどくさい。まあだいたい、「うそくせー、なーんかうそくせー」とか思う不動産屋のチラシの青空とか、なにかあるところから何もない方へグラデーションかかったりしてんの見ても、寛容な気持ちになれるというかなぁ。でももうちょっと雲を工夫しようぜ、どっかのおれのようなやつ! みたいな気持ちにもなるというかなぁ。
 まあしかし、今回は写真より文章の件でって言い出すと、おれだって高卒だけど一応は……って、でも文法みたいなこと言われっとわかんねーから、並立助詞一個の用法について無駄にネット上の論文調べたりして……いや、この愚痴は夜明けまでに帰れないのでおしまい。ちなみに上の写真は本文とは関係ないおれの撮ったなんの処理もしてないテケトーな写真。