映画『レ・ミゼラブル』感想〜いきなり歌うのって不自然じゃねえぜ〜



 「『ふがいない僕は空を見た』か『レ・ミゼラブル』か『007スカイフォール』のどれかを観たいんだけど」
 「年末に大井でガンバルジャンって馬走ってましたよ(追記:母母シバルーラーって今気づいたけど、ゴールドヘッドの近親じゃねえか)」
 「じゃあ、『レ・ミゼラブル』で」
 ということで、『レ・ミゼラブル』を観てきた。ミュージカル映画だ。おれはミュージカル映画というと、むろんDVDでだけれども『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と『ロッキー・ホラーショー』くらいしか観たことがない。なにか極端だ。王道という感じがしない。そこで『レ・ミゼラブル』なら王道だろう。一度くらい映画館で観てみようじゃないか。そんな感じだ。
 あとはそうだ、たぶん『アイアン・スカイ』だったかの上映前予告で、単なる予告編じゃなくて、これのメーキング映像と監督やキャストのインタビューが流れていた。なんでも、歌が別収録(リップシンク?)じゃあなくて、役者が演技しながらカメラの前で歌う。これが画期的なんだとか、そういうことだった。そこんところに少し興味がひかれたというのもある。
 最後のひと押しは、フランス革命というか、おれの敬愛するルイ・オーギュスト・ブランキの時代の話だということだ。パリのバリケード。ブランキは「革命蜂起教範」で次のように書いた。

 二十五センチ角の舗石六十四個で一立方メートルとなる。防禦壁および保障壁の内壁の高さと幅は常に一定である。すなわち高さは三メートル、幅つまりは厚さは一メートルである。長さだけは通りの幅如何によって変化する。
 たとえば、通りの幅が十二メートルあると仮定しよう……

 バリケードおよび保障壁は合計百四十四立方メートルになる。舗石六十四個で一立方メートルであるから、全体では九千百八十六個の舗石がいることになる。

 ブランキは計算を間違っている。だが、そこがいい。

それはともかく、映画『レ・ミゼラブル

 それはともかく、映画はどうだったかだ。これはもう、上映時間を感じさせないくらい面白かったといっていい。飽きさせることがない。あ、おれは原作を知らん。知らんが、wikipedia:レ・ミゼラブルのあらすじを読むだけでも長すぎて読めないものを元となるミュージカルの段階でギュッと濃縮して、ややわからん(ジャン・バルジャンの富とか)ところはあるものの、骨太、正当、真っ当なストーリーでほとんど過不足なしといっていい。
 そういや、おれはヴィクトル・ユゴーについては大昔に『九十三年』を読んですげーおもしれーって思って、これ『タクティクス・オウガ』みたいなゲームにならねえかとか思ったくらいで(まあ読んだのがいつくらいかわかるというもの)。今だったらそうだな、このジャン・バルジャンは力持ちでデカイ丸太とか振り回せそうだから無双シリーズだな。
 そういわけで、たった一つ不満を述べれば、ジャン・バルジャンとコゼットとの出会いの衝撃が傍目から見てそこまでのものだったのかというくらいで。おまわりさん、こいつです! くらいの迫力があってもよかったんじゃ。あ、現代日本の基準だと「暗い森の中で中年男が少女に名前を聞く事例が発生」とか警戒メール出回るレベルだけど。
 というわけで、軽く劇場内すすり泣き(鼻風邪の人かもしれないが)など聞こえたりして、いや、おれも正直ほろりときたね。ただ、最後ね、最後の歌がなかったら、「反革命的反動映画だ! 作ったやつはシベリア送りだ!」とか言ってたかもしらん。でも、ラストもよかったのでよかった。あ、これネタバレ? でも本筋と関係なくはないけどないからいいよね。たぶん、おれみたいなのじゃない同行者も「あれで終わってたら、なんなのって感じだった」って言ってたし。

そんでミュージカル要素なんだけど

 これがね、冒頭、大勢の囚人たちがでかい船をロープで引っ張るところから始まるんだけど、声を合わせて囚人の歌というか、そういうのを歌うわけよ。「あれ、『パイレーツ・オブ・カビリアン』?」みたいな。で、考えてみりゃ、そういう場でなんかそういう歌を合わせてリズムをとって力を合わせるみたいなのってのは、ぜんぜん不自然なシチュエーションじゃないわけじゃん。無言だったら不自然だ。歌じゃなくても、せめて音頭取りだの、掛け声だのはあって当たり前だ。
 ……というところから、すんなり入れた。……というと、まあ後付半分だけど、そういう狙いだったのか、みたいなところはある。いや、知らんよ。ミュージカル映画はさっき言ったとおりで、さらにミュージカルそのものなんて縁なく生きてきた人間だ。最近はめっきり見なくなったが、タモリが「笑っていいとも」でゲストがミュージカルの宣伝をするのに対して「不自然でしょ、ミュージカル」ってやる毎度のやりとりに首肯していたくらいだ。でも、なんつーか、少なくともこの映画は不自然さはない……というとやや言い過ぎだけど、いや、文句ねえし、これはこういうものなんだ、って思えば思うほどしっくりくるところもあって、まあなんか不思議と受け入れられたというか。というかむしろ、かっこいいというくらいまではいった。ドキュメンタリでない映画の台詞と歌とにどれだけの違いがあるというのか! いや、知らんが。
 そんで、三角関係みたいなのが一つの歌に集約されていくとか、「こういうものもあるのか!」みたいな。あと、独唱ではジャヴェールのラッセル・クロウがかっこよかったね。断然。あと、宿屋の夫婦のあれは『ロッキー・ホラーショー』っぽくてよかったな。
 と、まあそんなわけで、とりあえず今年の映画館一発目は満足で終わったと、そんなところで。まあ、ほかになんか惹かれるところがあるけど、ミュージカルということだけでパス、というのならば、見といてもいいんじゃねえのかと思うよ、と。でも、原作小説とミュージカルの間の翻案でもう耐え切れない、とか、ミュージカルとこの映画の間で……とかいう『レ・ミゼラブル』ファンの人とかは……まあべつにそこまで知ってりゃなんにも言うことないです。おしまい。

>゜))彡>゜))彡
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レ・ミゼラブル~サウンドトラック

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レ・ミゼラブル 全4冊 (岩波文庫)

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……まあ、原作はいいや。『カラマーゾフ』とか読まなきゃいけないし。
九十三年

九十三年

……たくさん訳があっておれがどれ読んだかわからんが、これは面白かった。面白かったのと、なんか神父? が出てきたのくらいしか覚えてない。ひどい。(追記:なんか新しいの貼ったらKindle版じゃん。もうそういう時代か)