さて、帰るか。

 土曜、図書館から会社。好きなラジオをかけながら一人仕事。めっぽうはかどる。一人で働くのが性に合っている。ただ、自分に関する銭の勘定なんてものはまったくできないし、想像するだにおそろしい。それ以前に、一人で食えるだけの技能がない、分野がない、人脈もない。ただ、一人で働くのが性に合っている。一人でタイルに細かい文様を描く技能と仕事とかあればいいのだが。だから、せめて平日も目の前の電話機をどっかにやって、ヘッドホンでもしながら作業できりゃあいい。でも、会社が少人数すぎてそれはできない。零細、少人数ゆえに融通のきくことと、それゆえにきかないこと。それ以前に、吹き飛ぶかわからない恐怖。いや、それ以前に自分に選択肢があるとは到底思えないこと。それ以前に、それ以前に、それ以前に……。どこまでさかのぼって自分の無能力が決まったのか、少なくとも、この時代で生きるための能力に欠いていることが決まったのか。あるいは、能力を得る機会を選ばなかったのか、拾わなかったのか、捨てたのか。それ以前に、おれに決まることを決める機会そのものがあったのかなかったのか。それがあったのかなかったのか、それもわからない。とはいえ、来週いっぱいくらいは食えるだろう。来月も食えるかもしれない。再来月はどうだ? その次の月は? どんどん確率は下がっていく。ただ、おれは能力だなんだそれ以前に、やる気というものに欠けている。圧倒的に欠けている。こちらの方は、ほとんど生来のもののような気がするが、きちんと脳科学でも学べば機会の問題であったかもしれぬとわかるかもしれない。わかったところでどうしようもない。それ以前に、それ以前に……。問題なのはこれ以後とあなたは言うかもしれない。そんなことは言われなくったってわかっちゃいるんだ。でも、それ以前に、それ以前に……。