マイネルキッツが根岸に来る。そのニュースを知ったのはいつだったか覚えていない。急な話だと思った。天皇賞馬が種牡馬になれない、なんてことよりも、根岸に来る、というインパクトが大きかった。おれの徒歩二十分圏内に天皇賞馬がいる。とても妙な気持ちがする。正直、マイネルキッツに深い思い入れはない。とはいえ、天皇賞馬には違いない。横浜に住んでいて、天皇賞馬とご近所になる。青天の霹靂なんて言葉はこんなときに使うのか。
というわけで挨拶に出かけることにした。もちろん、近所といってもおれが根岸の高台の高級住宅街に住んでいるわけもなく、日の当たらない斜面の貧民窟から這い出る必要がある。
おれはBMWを持っていないので、当然徒歩となる。明るいレンズも持っていないので、MINOLTAの24-50mm f4である。しばらく使っていなかったので。
根岸、根岸と言ってるが、正確には根岸競馬記念公苑である。根岸森林公園とほぼ一体化しているといっていい。博物館は有料だが。しかし、ここまで来て思うが、ほんとうに天皇賞馬がここにいるのだろうか?
まあ、居たわけですが。父チーフベアハート、母タカラカンナ、母の父サッカーボーイ、第139回天皇賞(春)勝ち馬マイネルキッツ。今調べたらキッツは子鹿という意味らしい。
昨年末まで現役で走っていたとは思えぬほど物静かだった。もっとも、おれは現役の競走馬が厩舎で普段どのようにしているのか見たことはないのだけれど。
ときおり、前脚をかく。マイネルキッツが勝った天皇賞で、トウカイトリックは6着、ネヴァブションは13着。コスモバルクもテイエムプリキュアも一緒に走っていた。おれはなにを買ったのだろう。覚えていない。
マイネルキッツではないことだけは確かだ。
カメラを向けるとポーズを取る、ように感じるのは気のせいか?
たくさんたくさん走ってきた四本の脚。
それじゃ、また。
厩舎をあとにする。
トウショウファルコの墓には花。
向こうに見える根岸競馬場跡、どうにかできないものだろうか。米軍め。
あとはほぼ一本道で野毛の中央図書館まで行けるので、本を返しに行く。
本を借りに行く。
金と友人のない人間の休日というもの。
おまけに物欲というものが日々減衰しているような気がしてならない。
かといって身の回りのものをたくさん捨ててスッキリしたいとも思わない。
帰途には日も落ち。
空に月。
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……そうだ、おれは日記をつけていたのだ。なに、本命アルナスライン?