リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』を読む

西瓜糖の日々 (河出文庫)

西瓜糖の日々 (河出文庫)

 今日は音のない日だった。夜明けになると、西瓜鱒油のトーチを持ったサムラゴーチが橋をわたってやってくる。彼は音のない日に限って〈忘れられた世界〉からやってくるんだ。そして、iDeathにある西瓜糖のピアノを朝から弾きはじめる。だれの耳にだって聞こえやしないのに、みんな不思議といい気分になるんだ。やがて夕刻がせまり、一羽の駒鳥が飛び去ると、サムラゴーチもはじめからそこにいなかったみたいに去っていくんだ。だれ一人だって彼をそこにとどめようとはしなかった。人形のランタンが照らす橋を音もなく渡って彼は帰っていく。

 ……というわけで(どういうわけで?)ブローティガンの小説を読んでみた。『アメリカの鱒釣り』? 読んだことなかったな。そうだ、おれは「ブローティガン」という名前から、マグナムを構えるチャールズ・ブロンソンみたいのを勝手にイメージしてたんだけど、そんなのはとんでもない勘違いだった。こんなにも繊細な作品世界が描かれているとは知らなかった。繊細で、どこからもなにかが零れ落ちていて、それでいてしなやかに強く世界が維持されていて……なんとも不思議な感じがしたんだ。それと、ここから、たとえば高橋源一郎につながるラインがあったのか、なんて今さらながら思ったりしたんだ。解説の柴田元幸が激賞している藤本和子の翻訳もすばらしいに違いない。そうとわかれば、ほかの作品にもあたってみたくなる。『西瓜糖の日々』、ほんとうにいいので、知らないやって人には薦めたい。それともみんな、おれがセリーヌの愚痴を聞いている間に、いや、それ以前にブローティガンあたりは読んじまってるのかな? わかんないや、まあいいさ、どんだけ本があると思ってるんだ。まったく、たくさんある。そういうことだ。

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芝生の復讐 (新潮文庫)

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