キンドル欲しかった

 おれはこのところ小説の類=図書館、漫画=購入というパターンになっている。本を買わなくなったぶんの浮いた金を、漫画に落とそうという具合だ。とはいえ、週刊誌、月刊誌戦線から15年以上くらい遠ざかっているので、せいぜい気に入ったアニメの原作や関連本、昔からとくに好きだった作家の本、世間で完全に評価の固まったらしい評判作品(『3月のライオン』とか『へうげもの』とか『ヒストリエ』とか『よつばと!』とか)といったくらいなのだけれど。
 で、電子書籍だ。言うまでもないが、図書館で本を借りるのはおれが貧乏だからだ。恥ずかしいが本当の話だ。図書館なら無料だし、手に入りにくい本も(おれの通うすばらしい横浜市の図書館なら)読める。高い本も読める。それはいい。そういう意味で図書館への行き来だのなんだのの手間は気にならない。文字の本は図書館でいい。そこら辺の適当な書店に入ってイサーク・バーベリが買えるかどうかおれにはわからない。
 一方で漫画はどうか。やはりこれが、貧乏人の住まいに積み重なっていくことに抵抗がある。まだ実家があったころの山のような量(夜逃げ時にだいたい人にあげるか捨てるかした)には到底およばないが、そうなっていくと逃げ場もないし、「生活費を考えろ」という現実をつきつけられ続けるような気にもなる。お前のような人間がうつつを抜かして漫画を読む余裕があるのか? と悪魔が囁く。大脳の不定動作だ。恐ろしい恐ろしい。
 じゃあ漫画は電子書籍でいいんじゃないのか。目に見えない。どうせ金は出すのだ。昔は紙で読んでいたんだよ。うそー。そう思いつつあった。いや、だいたい一年以上そう思い続けている。ふつうの収入のある人はもちろん、おれ程度の低収入の人間でも買っていいレベルの物欲といっていい。そして、買うのならば大きな船のチケット、すなわちKindleなら間違いないんじゃないかと、なんとなく思っていた。
 したら、こんなテキストを読んだ。

そんじゃマンガもこれからはキンドルだけでいいですよねーと思ってハナヤマタの原作1巻買ってみたんだけど、マンガはものすごく読みづらくてびっくりしました。だめだこりゃ。

 ハナヤマタはアニメの一話を見て、舞台が江ノ電沿いだってことにびっくりした。また七里か。また江ノ電か。たまには湘南モノレール沿い、深沢とか町屋、あるいは腰越、津あたりを舞台にしたらどうだ。微妙に海から遠いから絵にならないぞ。
 ……そんなことはどうでもよろしい。「マンガはものすごく読みづらくてびっくりしました。だめだこりゃ。」だって。
 って、だれが書いたかわからない(なにやらブックマーク上じゃ書き手の推測がなされているようだけれど)、増田のたった一つの感想をすっかり飲み込んでしまうの? という話になる。それこそAmazonのレビューでも精査してみりゃいいじゃん、という話になる。話になるが、ずばり目的の漫画についてのネガティヴな要素=買わなくていい理由じゃん。これに飛びつくところが……貧乏人の悲哀なんだなあ。有隣堂Koboの実機展示してあって、たまたま『ワンピース』が読める状態だったけど、読みにくくて「だめだこりゃ」って思ったことがあって(漫画のことじゃないよ。あ、おれ『ワンピース』知らないから)、そんときも心の中の財務相がウッキウキになって「否認」の判子捺したもんだ……。
 というわけで、当分のあいだは紙の漫画を買うことになろう。そして、部屋や職場の席の廻りに適当に積み重なることになるだろう。ちなみに今、デスクのまわりにある漫画は……ながいけん第三世界の長井』2冊、桜玉吉『深夜便』、いしいひさいち『新・忍者無芸帖』、石黒正数木曜日のフルット』3冊。これらがなにかの端末に収まってしまう……。悪かぁないなあ。ないはずなんだよなぁ……。