きみは一冊29,700円(税込み)の本を買ったことがあるか?
おれはある。
シオランの『カイエ』どーん。
うおー高い! なんでこんなに高いかよ。おれにはわからん。わからんが、おれはシオランの『カイエ』を自分のものとしたいという思いが強かった。ただ、高い。でも、図書館で借りまくってほぼ自分のものにする、というのでは足りないのだ。おれは敬虔なキリスト者が聖書を持つように、シオランの『カイエ』を持っていたかったのだ。
高いけど買った理由はなんだ? 臨時収入があった。あぶく銭ともいう。ハートのおかげである。いつか競馬場で「ハート! そのまま!」と叫びたい。
しかしまあ、おれもよう買ったな。法政大学出版局もよう売っとるよな。アカデミックな学術書的なやつはこのくらいするのか。おれの知らない世界。まあいい、おれはシオランの『カイエ』を手に入れたぞ。
でもな、おれも人並みくらいに本を読んできたとは思っているが、父親の蔵書時代→古本時代→図書館時代ときて、ほとんど本を買わなくなってしまっていたのだ。まあ、おれが今まで図書館で借り漁ってきた本の総額のうちの、ほんの一部、を出版業界に支払ったということにでもしておこうか。
しかしなんだ、このパラフィン紙、興奮するよな。読むのには邪魔だけど、捨てるにはもったいない。この感じ。外の箱にも、中の本にも使われてるぞ。べつにこれをいずれ売ってどうこうという気はないので捨ててしまってもいいけれど、新品でこの感覚というのはいいな。古本なら何冊もあったと思うが、新品となるとまた別だな。
ああ、もう、買っちゃったな。知っての通りおれは貧しいが、この29,700円がなかったら来月の家賃が払えない、というほどでもない。そういう意味ではレイハリアが勝たなくても買えた。というか、ちょっと馬券買うのを我慢すれば、いつでも買えた。ギャンブル依存症の怖いところよな。
え、シオランの『カイエ』ってなに?
こんな本だ。
そうだ、無人島に持っていく一冊だ。おれもいずれこの国を追われて、島流しになるだろう。そのとき、持ち出すことを許されたスーパー玉出のエコバッグになにをつめるかといえば、まずこの本だろう。
きみは一冊29,700円(税込み)の本を買ったことがあるか?
「あるに決まってるだろ貧乏人」、というのがおそらく大勢の声だろう。だが、おれが一冊の本にこれだけの金をはたくのは珍しいのだ。おおいに笑ってくれたまえ。だが、いつでも『カイエ』を適当に開いて、それを読める幸福というのはなかなか得難いものなのである。金持ちにはわからんだろう。
私はまともなやりかたでいまだかつて生活費を稼げたためしがない。あえて言えば、私はずっと間接的に生きてきたし、いまもそうだ。 P.334
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