結局舞妓って? 周防正行『舞妓はレディ』を観る


 舞妓さんのお話しを聞く機会があった。といっても、中学の修学旅行でのことである。話の内容は覚えていない。だが、内心で「この人達は将来売春をするのだろうか? しかし、そうだとしたら修学旅行の行事に教師が組み込んだりはしないだろう。よくわからない」と思ったものだった。そして、底辺の人生を歩むことになったおれは、花街での遊びどころか、安いチェーン居酒屋ですら酒を飲めず、安アパートで度数だけ高い安酒をあおるばかりである。そしてまた、舞妓というものは、さらに芸妓というものは男に買われるものなのかどうかわからないままおっさんになった(ので、以下の感想文は非常にバイアスがかかっているとご承知ください)。
 そんなおれが『舞妓はレディ』を観た。正直、直前まで存在すら知らなかった。知らなかったが、女が観たいというので観ることになった。周防正行監督ということで、舞妓世界を丹念に取材しての映画だろうな、などとは思った。思っていたら、主人公がいきなり歌い出して驚いた。
 「ミュージカル風」くらいの情報はあったが、こうくるの? という感じだった。「ミュージカル風」といっても、たとえばそのお座敷での遊びのシーンが歌で表現されているとか、そういうものと思っていた。ところが、津軽弁と鹿児島弁のバイリンガルである主人公は、おのれの心情をいきなり歌いあげるではないか。そうだったのか、こいつは京都の花街を舞台にした『TOKYO TRIBE』だったのか!(ちと違う)。それにしてもこの主役の子、見事な歌唱力。役にもハマってる。
 して、話は歌と踊りを散りばめながらとんとん進んでいく。進んでいくのだが、おれは頭のなかで冒頭の疑問と「金持ちの大金使った女遊びを見せられてもおもしろくねえよ」という下から目線が常にあったと言わざるをえない。ヒルズ族かなにかがグラビアアイドルなどを集めてウェーイってやってんの見せられるのと同じ気分。歴史、文化、伝統?……知らねえよ。
 と、登場人物の一人が主人公に「所詮は水商売だ、金だ」と指摘するシーンもある。あるいは、富司純子が昔話を通してその世界を語るシーンもある。小日向文世草刈民代のシーンからなにかを察してもいいかもしれない。だが、具体的にそのあたりを追い込んで見せることはない。あくまでも歌あり、踊りありの物語。華やかな世界を夢見て努力する少女の成長物語、なわけ。
 で、なんか歌と踊りにごまかされてといっちゃなんだけれども、頭の一方で「金持ちのウェーイ胸糞悪い」と思いつつ、話は話でそれなりに楽しめたともいえる。ラストで主人公の少女が京ことばの先生である言語学者を手玉に取るシーンなど、あの田舎から出てきた子がここまでになったか、などと思ったりする。思ったりするのだが、でも、その成長によって男を手玉に取り、お座敷じゃシャチホコとか花電車とかやって万札もらったりするようになんだろうな、などと思うとなんとも複雑な気分にもなる。え、やんないの、花電車?
 うーん、そういうわけで、役者熱演や、『シャル・ウィー・ダンス』のセルフパロディだったり、富司純子の緋牡丹オマージュだったり……あ、最大の元ネタであろう『マイ・フェア・レディ』知らねえけど、そのあたりもあって、悪くはないんだ。細部、たとえば髪をあの形にするシーンなんてのは「へー」って感じだし、竹中直人演じる……なんだっけ、なんかそういう仕事の人がいるのかとか、いくらか「ある知らない世界を覗き見る面白さ」みてえのはあったかな。あったけど、やっぱりその、旦那がどうこうとか、そのあたりのところはぼかしますかとか、勝手に思ってしまうのだけれど。この映画に求めるの筋違いなんかしらんが。まあでも、寝ずに飽きずに観ることはできましたよ、と。でも、一生縁のない金持ちの世界のことなんてどうでもいいし、みたいな。ま、そんなところでしょうか。

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……この日記で周防正行を検索したところ、この作品しか出てこないのである。