村上春樹『うさぎおいしーフランス人』に見る業について

村上かるた うさぎおいしーフランス人

村上かるた うさぎおいしーフランス人

「何が敗者復活戦だ。そんなわけのわからん話があるか。将棋は真剣勝負だし、負けたやつは負けたやつなんだ。グラディエーターで虎に食われたやつが生き返るか? 馬鹿抜かせ。アタマに来るな。今度こっそりトラコーマをうつしてやろう」
 そんなひどいことをしては医師としての倫理にもとります。将棋ごときであまり熱くならないようにしてください。そういえば昔「眼科の敵」という映画がありましたね。なかったっけ。

 「歯医者復活戦」と「眼科の敵」言いたかっただけやないかい。……というくらいものすごく脱力しきっていて、これ以上(以下?)の弛緩はないんじゃないかというくらいしょうもない本だし、それは著者も認めていて、まえがきで、でもこういう役に立たないものも世の中にあっていいじゃないですかって主張してくらいのものなのだ。
 よくわからないが、作家というものは何かを見聞きしたり、あるいは自分の中を探ったりして、物語が内側からどうしようもなく出てきてしまう人種なんじゃないかと思う。あるいは、言葉と向き合ったり、弄んだりしているうちになにかネタを見つけてしまう。
 で、それが「眼科の敵」だったりしたとき、これで大長編を書こうとはならん(なってもいいけど)。ならんけど、心のどっかで「眼科の敵」はあって……それを心にしまって書かない作家もいれば、書いちゃう作家もいる。村上春樹は後者なのだろうと思う。元来そういう性格の人なのか、シリアスな長編とバランスをとるためにそういうことを書くのかはしらんけど、ともかく思いついちゃったんだろうな、と。書きたかったんだろうな、うさぎおいしーフランス人て。
 正直なところ、ところどころ「くひひ」と笑ったけれども、まあ緩すぎるわな。安西水丸の絵が救いかな。いや、救いなのかどうか。ともかく、この本、まあ町医者の待合室にでもあると収まりがいいなとか思ったのでした。いや、子供が読むには下ネタ多いかな? まあいいや。おしまい。
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