湯気の中から半開きの侍が出てきて、気分の悪いやつはためらわずに手を上げろ、と言った。おれは気分がすぐれなかったのですっと手をあげた。半開きの侍は折りたたみのテーブルに申し込み用紙を用意して、備え付けのボールペンで書けという。イチョウ並木は黄葉していいものかどうか迷っていて、どっちつかずの葉色をしていた。煙突から紫色のエンパワーメント煙がもくもくと空に登っていった。それを眺めていると、おれは人を乗せるのにはちょっと小さいくらいのカラスに乗るべきかどうか悩むのだった。都市のビルとビルの間にはカーボンのチューブが連結されていたし、なにごとも繋がりやすい時代のことだった。鉄塔のひとつひとつに警察官が配備されているのは知っていたけれど、だれも知らないふりをするのが流行だった。あえて警察官の前で「今年のジャガイモの出来はいまいちですね」などと言うのだ。割烹系の警察官などは思わず口をはさみそうになるが、そうなったら最後の穴に行かされるのはわかっているので、右手で黄金拳銃を弄んで時が過ぎるのをまっていた。エンジン音のやけに小さい大麻草自動車が川沿いの道を走っている。川には死んだ魚が浮いているが、浮いた魚は豚くらいしか食べないので、見てみぬふりだ。スーパームーンの光を浴びて、少女はいっそう美しく、前科者も浮浪者も涙を流した。月の光にも温度はある。月光浴をしすぎて肌をだめにしてしまったものも少なくない。その治療費を市が補償するべきかどうかが目下のところ市民の話題。怒りは管理されるべきだし、悲しみは湧き上がらない。申し込み用紙を半開きの侍に渡すと、おれは33分の眠りについた。届いた見積書は、おれの考えるのとまったく違う仕様だった。乾燥した艦隊が荒れ地を進撃する。どこまでも、どこまでも行く。