蛍光灯から水が漏る

魂の色をして歩いていた。傘をさすのはいつだって嫌い。おれはいつだって空を見たいのだ。そんなことを考えているあいだ、ずっとぴしょぴしょ音がしていて、おれもいよいよまぼろしの音を聞くようになったのかと思い、しばらく放っておいたが、「キャー!」と声がするのでいよいよ振り返ってみると、蛍光管から水が滴り落ちて、薄汚れた絨毯を濡らしていた。

電気を消す。オフィス全体の電気が消える。あわててバケツを下に置き、まわりと中に雑巾を敷く。管理会社に電話する。上の階、入居者のない住居用の部屋の下水管の掃除をしていたという。

まだ、その業者がいたので声をかける。たぶんシンクの下ですね……ドント・シンク、ムーブ! 「とにかく水を止めました」。これ以上、水は増えません。だが、溜まっているぶんは? びしょ濡れになったのに光っていた蛍光管は?

翌日、電気工事の110番のような業者に電話する。「今すぐ来てほしいのですが」。「午後4時〜6時になります」。べつの業者に電話する。「午後1時から3時になります」。「お願いします」。

午後2時半。部屋は暗い。虹も見えない。おれの目は疲れていた。電話が鳴る。誠実そうな声で「あと5分でうかがいます」。あと5分だったら、そのぶん移動に使ったほうが早いのではないか。いや、予告するのがマナーなのか。

背の高い、30歳くらいの業者さんが一人でくる。状況を説明する。「電気はつけなくて正解でした」。そう、管理会社も、昨日の配管業者も、「とりあえずつけてみたら?」などと言っていた。社内に家族が電気工事業者をやっていえる人がいて、相談したところ「絶対につけないほうがいい」とのことで、そちらを信用した。

「結局、この機器は交換ということですかね?」と上司。「とりあえずここへの送電を止める処置をします。機器の交換前に、水漏れの原因を解決してください」と業者さん。ケーブルを外すとテーピングをして作業終了。出張費と作業費で9,700円。あっという間の作業。しかし、われわれにはどの配線が電気の線かはわからなかったし、ロックなんて聴かない。彼の数分、いや、数十秒の作業は、彼が何年か学び、何年か働き手に入れた何年分もの仕事。忘れてはいけない。ドント・ルック・バック・イン・アンガー。サリーは待っていてくれるだろうか?

そして、今も職場の一部は暗い。明日、配管業者と電気業者がくる。このビルは古い。この街の終わりはとうに見えている。おれは魂の色をして歩いていた。見上げた空は退屈な、青空。歩き出せ、夏空の下へ。

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