「もしもし、あ、○○荘の黄金頭です。あ、今日はアンテナの話じゃなくて、エアコンなんですけど、もうさすがに古いので買い替えたいと思うんですけど、工事の手配とかこっちでやっちゃっていいんですかね?」
「えーと、壊れてはいないんですね? 壊れていたら、こちらで交換するのですが……。あと、万が一出ていかれる場合は、残してもらうことになります」
「え、あの、前に管理されていた不動産屋さんからは、前の住人の残置物と聞いていたのですけれど?」
「あ、そうですか。付帯設備でないならば、また、万が一出られる場合に確認します」
……ということで、おれは管理会社の不動産屋に連絡を入れた。
おれは、新しいエアコンを買うつもりになっていた。
軽躁状態がそうさせていたのかもしれない。しかし、その精神状態を把握した上で、なおかつ、もう、この古いエアコンで夏を過ごすのは嫌だと思った。いくら無駄な電気代を使うかわからないエアコンを稼働させることのストレス。これから解放されたいと思った。
まあ、古いエアコンが付帯設備であったところで、壊れていなければ換えられない、というのであれば、おれが買うしかないのだ。壊れているかどうかわざわざ確認しない? そこまでは、もうどうでもいい。
ということで、おれはヨドバシ・ドット・コムでエアコンを買うことにした。
(リンクはAmazon、型も違う)。
わざわざ家電量販店に行くのも面倒くさいというのもあった。このごろネット通販ではヨドバシを使うことが多く、ポイントがつくのも問題ない。それに、家電を買うならAmazonよりヨドバシだろう(Amazonという発想自体なかったけれど)。
で、おれはあまり熟慮せずに、三菱の霧ヶ峰の一番安いやつを選んだ。自動掃除的ななにかは、工事料が高いので避けた。本当は、残置物かどうかわからない、今ついているDAIKINのエアコンは寿命が長くてすげえな、と思ったのだけれど、DAIKINは高かった。
というわけで、おれはネットで申し込んだ。工事については電話が来るように申し込んだ。場合によっては一日会社を休もうかと思ったら、最短で6月9日という。日曜日だ。それにした。
部屋を少し片付けたが、どうでもいいかと思った。室外機を見てみた。ドクダミとツルドクダミが生い茂っていたので、それを抜いた。室外機をよく見ると、コンクリートブロックにネジで固定されている。室外機は壁の外に置かれ、置かれている場は切り立った隣の敷地との壁ぎりぎりだ。
(撤去後。奥は上の階の室外機)
……これ、どうすんだろ? 追加料金だろうか? おれは不安になった。しかし、コンクリートブロックに固定というのはよくある方式だし、地面に設置ということになるのではないか? おれはそう思うことにした。
6月9日、おれは早起きした。早起きしたかいもあって、早くに電話があった。「3時~5時くらいに伺います」。わりと、遅い。エアコンがベッドの上に設置されているため、おれは起きるとともにマットをのけてしまった。二度寝もできない。
それでもおれは競馬をする。「なんかヴィクトワールピサが来ているな」ということで買ってみたら、ウィクトワールピサのワンツー。さらに、「この条件はディープインパクトが強いな」と思って買ってみたら、二万馬券でワンツー。血統なんてのは、いい加減に買う材料だ。清水成駿もそう言っていた。おれは血統をそのように使う。
とか、思っていたら、ノック。なにか、少し細めのイケメンのお兄さん一人到来。「どこですか?」というので、部屋に入ってもらって、「これです」。「ベッドの上で作業していいですか?」というので「大丈夫です」。とても感じのいいお兄さんだ。むろん、お兄さんといっても、おれよりだいぶ年下なのだけれど。
古いエアコンを取り外す。「濡れ雑巾とかあれば、ほこりを拭き取りますが」というので、おれは新品の雑巾を水に濡らし、絞り、手渡す。新しいエアコンは、横幅は前のより短いが、せり出し具合はまさっていた。
次は、室外機だ。問題の、室外機だ。室外機案内についていく。「この、手前のやつだと思うんですけど」。「危ないですね、こっちの横につけてもいいですか?」。「そっちがやりやすいのなら、いいと思います」。
ということで、管理会社に相談もせず、そっちにしてもらうことにした。だいたい、そこは誰も通らないし、文句も言われないだろう。そっちってどっちかというと、崖の上の手前の角だ。説明する気はない。おれはまた室内に戻って、タブレットでカープ戦を流しつつ、競馬新聞を読みつつ、iPhoneで馬券を買ったりしていた。
しばらくして、また部屋に入ってきて、リモコンのスイッチを入れる。試運転、だろうか。また、外でガタガタやっている。そして、「ちょっと手伝ってもらっていいですか?」という。
古い室外機を持ち上げるのに、一人では足りないらしい。おれはMERRELLをひっかけて、外に出た。室外機の片側を持って持ち上げた。「裏側の部分は鋭いので気をつけてください」と言われる。室外機を、断崖絶壁でないところに持ち出した。コンクリートの台座ごと。「ネジ、どうするんですか?」とおれ。ネジは錆びきっていて、どうしようにもないように思えた。ドリルか何かで破壊するのか? すると、お兄さんは、「引き剥がします」と言って、蹴りを入れはじめた。コンクリートが重いので、それを利用して引っ剥がすのだ。キック、キック、アンド、クラッシュ。「コンクリートは持って帰れませんので、元に戻します」。そして、さっきの写真の状態。
「古いのに比べると、今の室外機は小さいんですね」とおれ。
「三菱のこれは、他のどのメーカーのより小さいんです」とお兄さん。
というわけで、おれの部屋には新しいエアコンがついた。
これで、おれは、電気代を気にしないで部屋を冷やせる。すばらしい。この霧ヶ峰の名前はなんにしようか? 「すばらしいサトノガーネットとヴィッセン号」にしようか。いや、「ヴィッセン」でいいか。どうでもいいか。ともかく、おれは、あまり電気代を気にせずに、部屋を冷やす夏を手に入れた。惜しむらくは、今日という日があまりにも寒く、とりあえず稼働させることもないことなのであった。
おしまい。
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