マイナスから立ち上がって人間らしく生きるのはむずかしい

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急に暑さがつらくなってきた。おれは元からつらかった。朝、ベッドの中で目を覚まし、そこから這い出るだけでひと仕事だ。シャワーを浴びながら半ば意識を失ったりしてひと仕事だ。靴を履くのもひと仕事だ……。

これが心身ともに健康な人間であれば、おれがそういった時間を朦朧と過ごしている間に、身体を動かしてさらに健康になり、栄養のある食事をしてさらに健康になり、身の回りの掃除などしてさらに健康になり、健康な身体はますます健康になって、ますますおれとの差は遠ざかっていく。宇宙が膨張するようにどこかへ行ってしまう。おれがますます身体を動かせず、ろくな餌も食えず、身の回りの整理整頓もできず劣悪な住環境になっていく間に……。

富めるものはさらに富み、貧しきものはさらに貧しくなる。与えられたものはさらに与えられ、奪われたものはさらに奪われる。

何年前かしらないが聖書が書かれたころからそうだった。無力なものはこれに抗うすべがない。そして我が身を呪い、つまらない人生を送り、虫けらのように死ぬ。

富めるものはさらに富むがいい。好きにすればいい。おれにはそこに行ける可能性もなければ、それをやめさせようとする力も意思もない。そもそも、おれなんていうものに意思が存在すると考えるのが間違いだ。オジギソウのほうがまだ意思がある。意識的に生きている。おれはもうたんに頭の中がうんざりとした白くもなく黒くもないぼんやりとしたものに占められていて、人が生まれたと聞けば「生まれましたか」と思い、人が死んだと聞けば「死にましたか」と思うだけだ。

どこで失敗したのだろうか。精神疾患を発症したときか? いや、違う。おれはもう、物心ついたときからうんざりしていたのだ。何度でも言うが、生まれてきたのがそもそもの間違いであった。こんなに、おれを疲弊させ、苦しめ、不安にさせ、馬券は外れ、救い一つない世界に生まれてしまったのが間違いであった。

……このまま、極限まで低い意識のところまで降りていって、そのままこの世から消え去ってしまいたい。せめて苦しくないように、苦しくないように……。