黒いプリウス

黒いプリウスを見た。べつに珍しいものではないだろう。だが、そいつは珍しかった。マット加工を施されていたのだ。反射しない黒色の車体。そんなプリウス。でも、それじゃあ、それほど珍しいとも言えないのじゃないか。いや、違うんだ、そのプリウス、ヤクザの事務所の前に停まってたんだ。

おれはそれを見た瞬間、ひき逃げ、奇襲、拉致などという言葉が浮かんでは消えた。ひと気のない路地、音もなく忍び寄るプリウス。気づかぬマトを轢いて逃げる。あるいは、深夜の埠頭、騙しておびき寄せたマトを近づいて銀ダラで二発、三発……。

これかのヤクザはベンツでもアルファードでもない、プリウスや。そう思った。マット加工で黒光りしないプリウス。静かに忍び寄って、ヒットマンが仕留める!

……って、まあ妄想なんだけれども。というか、今どきプリウスより電気自動車の方が音しないですかね。でも、あのヤクザの事務所の前に停まっていたプリウスは、一瞬にしておれを深町秋生ワールドにいざなった。なんかこう、非日常なのが現れたのだぜ。山下公園を散歩していたら、ズムウォルト級が大さん橋に停泊していたみたいな。いや、まあ、それだけなんだけど。

トミカ No.76 トヨタ プリウス PHV GR SPORT (箱)