はじめに目にしたのはスポーツナビだったと思う。正確な見出しは覚えてないけど、ともかく、広島が人的補償で巨人から長野獲得、というものだった。おれは普通に声を出してしまった。仕事中だぞ。
でも、そのソース、東スポである。半信半疑……と思いきや、かなり断定的な記事。おれも東スポとの付き合いはおもに競馬のある週末ではあるが、10年以上にはなるだろうか。東スポには、世間的なイメージよりもまともな部分もあるのだ。なんとなく、その「まともな部分」ではないか、と思った。
思っていたら、たしか朝日新聞だったか、次のソースが来た。そして、次から次へと。長野久義が、カープに?
この想像のつかなさというのは、なんの花に例えられましょう? これは屈辱的で自虐的な話ではあるかもしれないが、確定前からジャイアンツの黒帽子をかぶる丸佳浩は想像できた。だが、あなた、赤ヘルをかぶる長野?
長野というと……正直、逆三顧の礼というか、なにがなんでも巨人に入りたいマン、という印象である。そして、世代は違うだろうが、阿部慎之助や坂本勇人とともに、数少ない巨人の生え抜きで強めの人、というくらいしか知らない。
というか、このごろはカープが強くなってしまって、物心ついてからのカープファンであるおれはそれが楽しくなってしまって、同じく物心ついてからのアンチ巨人であるおれはあまり巨人にも興味を持てなくなっていたのだ。だから、長野がチームでここ数年どのようなポジションにいたかもしれない。ただ、なんとなく、巨人生え抜きで、強い人。ある意味では、巨人の顔の一人。
それが、だ。広島に来るってなあ。いや、もちろん人的補償についてあれやこれや書き込まれている掲示板なんかを見ていて、「どうせ獲らないと思って阿部や長野をプロテクトしないんじゃないのか」なんて話は見ていた。だが、本当に外すとも、そしてカープが獲るとも、まったく予想していなかった。青天の霹靂に近い。
「若い投手を獲るのだろう」、「左投手を獲るのだろう」という意見が少なくないし、おれもそれが既定路線のように思えていた。が、ここ数年低迷気味の巨人で、なおかつ芽が出ていない投手に賭けるのも博打だ。
そう考えてみれば合理的な、リアリズムの選択であるように思える。まず、外野手の丸が抜けたのだ。外野手を補強する。普通だ。もちろん、丸の後釜候補がたくさんいるのはお前に言われんでもわかっとる。鈴木誠也、野間峻祥ときて、あと一枠。西川か松山かバティスタかメヒアか、堂林? それとも坂倉か……。
でも、だ。バッティングについて松山がそれなりの数字を残せることは計算できるかもしれないが、守備と足に難がないとは言えない。西川もバッティングだけなら計算できるかもしれないが、なにせ外野転向一年目で思うように野球ができるのか? だれかがハマれば穴は埋まるかもしれない。が、それも丁半博打のようなものだ。それに、さらっと書いたが野間峻祥だってレギュラーを掴み取った昨年のような数字を残せるかどうかはまだわからん。他球団に研究されつくされる可能性もある。
そこで、長野。安定してシーズン100安打を打ってきた男。年齢的にも守備、走塁での大活躍は望めないかもしれないが、松山よりは……などと松山に失礼な。でも、若手と競わせながらのレギュラー、半レギュラー、いいあんばいかもしれない。
あるいは右の代打の一番手としても、悪くない。もう、カープには新井貴浩もブラッド・エルドレッドもいないのだ。下水流昂には悪いが、やはり迫力には欠ける。バティスタもメヒアも、まだ確実性でやや期待できないところもある。そこで長野はどうだ。おお、なんか打ってくれそうな気がする。
あとはなんだろうか、人間性に期待する声が少なくない。最初にすっぱ抜いた東スポに敬意を表して、引用する。「鬼軍曹」大下剛史がこう述べている。
かねて懸念していたのは、新井が抜けた穴をどう埋めるかだった。打率や打点、本塁打といった数字はどうにかなるとしても、精神的支柱にしてムードメーカーでもあった新井の存在は唯一無二のもので、丸の移籍による戦力ダウンよりもむしろ心配していた。
その点で長野はうってつけだ。明るい性格で愛嬌があり、誰からも好かれる。巨人のキャンプ取材などでも、真っ先に飛んであいさつに来るのが長野だった。実績があるからといって偉ぶらないところも新井によく似ている。若い選手が多い広島でも、違和感なく溶け込めるだろう。
ちなみにダルビッシュ有もこう述べている。
広島入りが決まった長野は、球団を通じて「3連覇している強い広島カープに選んでいただけたことは選手冥利に尽きます。自分のことを必要としていただけることは光栄なことで、少しでもチームの勝利に貢献できるように精いっぱい頑張ります」と前向きなコメントを発表した。
この発言を受けて、ダルビッシュは「素晴らしいコメント」と称賛。続けて「巨人の選手に聞いても長野さんはクソほど評判がいいです」と明かした。
まさか、巨人の中だけでいい人で、他のチームに来たからといって態度急変みたいなことは……あまり考えられない、というか考えたくない。そうか、長野がどんな性格の選手かなんて今まで人生で一度たりとも考えたこともなかった。いいならいいでいいに越したことはない。
ああ、それにしても、長野久義だぜ。巨人の顔の一人だぜ。そりゃあ、巨人はカープからでかい顔を持っていったさ。でも、なんというか、あんまり、大物トレードとか、補強のないカープにとって、これは、大きいよな。ここは意見の分かれるところだろうが、おれは「たまにはカープも大きな補強をしてほしい」と思っている派なので、なんというか、丸が出ていった残念さより、長野の赤ヘルの楽しみが上回ってしまっているのが今現在だ。「読売コンプレックスじゃないの?」と言われたら、そうかもしれない。
しかし、思い返してみろよ、福井敬治獲得、というだけでワクワクしていた暗黒時代があったのだぜ。石井琢朗が来てくれる! とか、豊田清が! とか。いや、実績で言えば石井琢朗の方が偉大だし、それこそ横浜の顔だった選手。とはいえ、なんというか、今回の長野の方がインパクトあるように思える。もし、一年経っていきなりFAで出ていくというのなら(それはそれでまた人的補償も発生しそうなので)、それはそれでいいだろう。でも、なんかこう、赤ヘルかぶった長野久義はちょっと想像つかないのだけれど、その姿が見られるというのは、けっこう楽しみなことじゃないか、なあ。赤ヘル似合うのかなあ?
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